鄭南榕

鄭南榕（チェン・ナンロン、1947年9月12日 - 1989年4月7日）は、台湾の民主化運動家であり、ジャーナリスト、そして出版者です。彼は、台湾の政治雑誌『自由時代』の編集長として、その生涯を台湾の民主化と自由な言論の確立に捧げました。

鄭南榕は、台湾の反国民党勢力を支持し、特に表現の自由と台湾の民主化、そして台湾独立運動を強く主張しました。彼の活動は、当時の台湾社会に大きな影響を与え、民主化運動の象徴的な存在となりました。

彼の妻は政治家であり、現在は台湾観光協会の会長を務める葉菊蘭です。鄭南榕の父親は中国本土の福建省福州出身の「外省人」であり、母親は台湾にルーツを持つ「本省人」でした。この出自は、彼の台湾に対する深い愛国心と、社会の不平等に対する強い反発心の根底にあったと考えられます。

国民党による戒厳令下の台湾で、政府の厳しい検閲を受けながらも、鄭南榕は5年8ヶ月にわたり、302号もの雑誌『自由時代』を刊行し続けました。雑誌は、その反政府的な内容から度々出版禁止に追い込まれましたが、彼はタイトルを微妙に変えながらも「時代」という言葉を残し、デザインもほぼ統一することで、読者には一目で鄭南榕の雑誌だとわかるように工夫しました。

彼は「100%の言論の自由」を常に主張し、韓国の民主化運動から大きな影響を受けたとされています。彼の行動は、「行動する思想家」、「やると決めたら徹底してやり遂げる信念を持つ人」と評されており、その強い意志は多くの人々に勇気を与えました。

雑誌『自由時代』の創刊以外にも、鄭南榕は「二二八平和日促進会」を設立し、第二次世界大戦後の1947年に台湾で発生した二・二八事件に対する救済を求めました。また、「五一九緑色運動」を2度組織し、群衆の力を背景に当局に戒厳令の解除を迫りました。

1986年に初めて逮捕された後、彼は8ヶ月の懲役を含め、2度も国民党政権によって逮捕されました。1989年1月27日、国民党政権による強硬な逮捕に反抗し、編集室に立て籠もりを開始しました。71日後の1989年4月7日、機動隊の突入直前に、雑誌社の編集長室を封鎖し、ガソリンに火を放って焼身自殺を遂げました。この衝撃的な彼の死は、台湾の民主化運動の高まりに大きな影響を与え、台湾の政治改革を大きく前進させる起爆剤となりました。

彼の編集室は、現在も黒焦げた状態で台北市松山区に保存されており、その場所は「自由巷」として知られています。また、4月7日は台湾の「言論の自由の日」と定められています。

鄭南榕は、日本にも滞在経験があり、東京で暮らす台湾人と交流していました。台北駐日文化代表処の代表を務めた津田塾大学名誉教授の許世楷もその一人であり、彼らはお互いにタバコを吸いながら、徹夜で台湾の未来の自由と民主主義について語り合いました。また、許世楷が作成した台湾の新憲法草案は、鄭南榕の雑誌『自由時代』に掲載され、広く社会に知られることになりました。

鄭南榕の生涯は、台湾の民主化運動における重要な一章であり、彼の勇気と犠牲は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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