鄭柄宙

鄭柄宙：12・12クーデターと謎の死

鄭柄宙（チョン・ピョンジュ、정병주）は、1926年10月6日、慶尚北道に生まれた韓国陸軍の軍人です。1979年12月12日に発生した全斗煥主導のクーデター（12・12クーデター）において、陸軍本部側の中心人物としてクーデター鎮圧に尽力したことで知られています。しかし、クーデターの失敗に伴い、張泰玩首都警備司令官らと共に拘束され、予備役編入を余儀なくされました。その後、1989年3月4日、謎の死を遂げ、その最期は現在もなお多くの謎を残しています。

華々しい軍歴からクーデターへの抵抗へ

鄭柄宙は、韓国陸軍において着実にキャリアを積みました。第6師団参謀長（師団長は後の大統領暗殺犯である金載圭）、国防部作戦次官補、第6軍団参謀長、第1空輸特戦団長、第12師団長、第11師団長などを歴任。1974年には大統領警護室次長、そして特殊戦司令官に就任するなど、要職を歴任しました。

これらの経歴からも分かるように、鄭柄宙は軍内部で高い地位と信頼を得ていました。しかし、そのキャリアは12・12クーデターによって暗転します。クーデター勃発時、鄭柄宙は特殊戦司令官として、陸軍本部（正規軍）側を代表する存在でした。クーデター勢力に対抗し、鎮圧を試みました。しかし、クーデター勢力「ハナ会」の勢力は強く、特殊戦司令部麾下の旅団長3名がハナ会メンバーであったこと、そして、北朝鮮の南侵の懸念やソウルを戦場化させたくないという陸軍本部の思惑などから、クーデター鎮圧は失敗に終わります。結果、鄭柄宙はクーデター勢力によって拘束され、予備役編入という形で軍を去ることになりました。

強制予備役編入と謎の死

予備役編入後も、鄭柄宙は12・12クーデターの不当性を訴え続けました。同じく予備役編入された張泰玩と連絡を取り合い、クーデターの真相究明に尽力しました。しかし、1989年3月4日、楊州市の山中で首吊り自殺した状態で発見されました。

鄭柄宙の死因は公式には自殺とされましたが、多くの謎が残されています。敬虔なカトリック教徒であったこと、死の直前に張泰玩と会い、クーデターの不当性を訴える意思を表明していたことなどから、他殺説も根強く囁かれています。民主化後、軍当局による再調査が行われましたが、証拠不十分のため、結論は出されませんでした。彼の死は、韓国現代史における未解明の事件として、現在もなお議論されています。

鄭柄宙を描いた作品

鄭柄宙の生涯は、数々の映画やドラマで取り上げられています。

映画『ソウルの春』（2023年）：チョン・マンシクが鄭柄宙をモデルとしたコン・スヒョクを演じています。
テレビドラマ『第5共和国』（2005年）：ミン・ウクが鄭柄宙を演じています。

これらの作品は、鄭柄宙の複雑な人生と、12・12クーデターにおける役割を異なる角度から描いています。彼の生涯と死は、韓国現代史を理解する上で重要な鍵となるでしょう。

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