張泰玩

張泰玩：クーデターに抗った将軍の生涯

張泰玩（1931年9月13日-2010年7月26日）は、20世紀後半の韓国で軍人として、そして政治家として重要な役割を果たした人物である。慶尚北道漆谷郡の農家に生まれ、朝鮮大学校法学科卒業後、ソウル大学校経営大学院最高経営者課程も修了するなど、学問にも励んだ。1950年、陸軍総合学校を卒業し、軍への道を歩み始める。

着実にキャリアを積み重ね、第5軍団参謀長、首都警備司令部参謀長、第26師団長、陸軍本部教育参謀部次長などを歴任した。部下からは厳格な訓練で知られた一方で、兵士たちと共に訓練に励み、生活環境の改善にも尽力したと伝えられている。その指導力と人望は、部下からの深い信頼と尊敬を集めていた。

1979年、朴正熙暗殺後の混乱期に首都警備司令官に就任。そして、運命の12・12クーデター（粛軍クーデター）が勃発する。張はクーデター反対派の代表的人物として、全斗煥率いる国軍保安司令部と対峙する。しかし、全斗煥の秘密組織「ハナ会」の内部工作により、クーデター鎮圧に失敗、拘束される。クーデター後、予備役編入され、西氷庫での取り調べや自宅軟禁を経験した。

軍を退役後、韓国証券電算会社社長や会長、ル・メイエル株式会社会長など、民間企業のトップとして活躍した。韓国の民主化後には、1993年に民主党の「12・12クーデターに関する事実調査委員会」に参加するなど、民主化運動にも関与した。1994年から2000年までは在郷軍人会会長を務めた。

2000年には、金大中政権与党の新千年民主党に入党し、第16代総選挙で国会議員に当選。その後、国会報勳特別委員長に就任するも、2004年の総選挙には不出馬を表明し、政界から引退した。

2010年7月26日、肺がんのため78歳で死去。告別式には、粛軍クーデターで対立した人物も参列し、その生涯がいかに韓国社会に大きな影響を与えたかを物語っている。盧泰愚元大統領も弔花を送った。

張の家族も、クーデターという時代の波に翻弄された。父親はクーデターの報を聞いて絶望し、断食の末に死去。息子は行方不明となり、変死体で発見されるという悲劇に見舞われた。妻も、張の死後、投身自殺で亡くなっている。

張の生涯は、ドラマ『第5共和国』や映画『ソウルの春』で描かれている。特に『第5共和国』では、張のクーデター時の活躍が強調され、「張フォース」という愛称でネット上で話題になった。しかし、張自身は、このドラマを全斗煥を美化していると批判している。

張の著書『12・12クーデターと私』は、彼自身の視点からクーデターを振り返った貴重な資料である。

張泰玩の生涯は、韓国の民主化という大きな流れの中で、軍人、政治家として複雑な立場に立たされた一人の人物の物語である。彼の経験は、現代韓国の歴史を理解する上で重要な手がかりとなるだろう。そして、彼の苦悩と葛藤は、今もなお多くの人の心に深く刻まれている。

もう一度検索