酔ったシレノス (ルーベンス)

『酔ったシレノス』（独: Der trunkene Silen、英: The Drunken Silenus）は、フランドルのバロック美術を代表する画家、ピーテル・パウル・ルーベンスが1618年から1625年頃に制作した油彩画です。樫の木の板に油彩で描かれており、元々はルーベンス自身の家に飾られていた作品でした。

この絵画は、ギリシア神話に登場する酒の神ディオニュソスの教師であり、従者でもあるシレノスを描いています。シレノスは、陽気で肥満した泥酔者として知られていますが、同時に賢人であり予言の能力も持っていました。ルーベンスは、この作品でシレノスが酔ってよろめきながら歩く姿を捉えています。彼の腹部は肉と酒で膨れ上がっており、その顔は古代ギリシアでシレノスとして描かれる際によく用いられた哲学者ソクラテスに似ています。

シレノスの周囲には、老いた人物、酔っ払い、黒人、子供、若い女性たちが描かれており、彼らが酒色にふけっている様子が表現されています。画面左側には授乳するパニスキン、右側には交尾する山羊のつがいが描かれており、これらの描写はシレノスの享楽的な性格を象徴しています。ルーベンスは、厚塗りによる筆致で、不注意な飲酒がもたらす酔っ払い達の足取りの重さを表現しており、その一方で、細部を詳細に描き込まず緩い筆致を用いることで、巨匠ティツィアーノの作品研究の成果を示しています。

この絵画は元々シレノスの半身像のみを描いたものでしたが、1620年代にルーベンス自身によって画面が拡大されました。その後、1716年頃にデュッセルドルフ絵画館に所蔵された後、1806年からはミュンヘンのアルテ・ピナコテークに所蔵されています。

ルーベンスの『酔ったシレノス』は、バロック美術の力強い表現と、神話的なテーマを巧みに融合させた作品として、今日でも高く評価されています。彼の卓越した技術と豊かな色彩感覚が、この作品を通じて存分に感じられるでしょう。

参考資料:
C.H.Beck『アルテ・ピナコテーク ミュンヘン』、Scala Pulblishers、2002年刊行 ISBN 978-3-406-47456-9

外部リンク:
[アルテ・ピナコテーク]]公式サイト、ルーベンス『酔ったシレノス』 (英語) [https://www.sammlung.pinakotheken.de/en/artwork/m5xO1vEw0v
* Web Gallery of Artサイト、ルーベンス『酔ったシレノス』([英語]]) [https://www.wga.hu/html_m/r/rubens/12other/14silen.html

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