酸素欠乏症

酸素欠乏症：知っておくべき危険と対策

酸素欠乏症は、空気中の酸素濃度が低下することで発生する深刻な症状です。ヒトは通常、約21%の酸素を含む空気中で生活していますが、酸素濃度が18%を下回ると、酸素欠乏症の症状が現れる可能性があります。個体差はありますが、特に脳は酸素不足に敏感で、深刻なダメージを受けやすい臓器です。

発症メカニズム：悪循環の連鎖

肺は、空気中の酸素を取り込み、血液中に酸素を供給する役割を担っています。しかし、酸素濃度が低い環境では、肺胞におけるガス交換が正常に行われず、血液中の酸素濃度が低下します。この状態が続くと、延髄の呼吸中枢が反応し、呼吸が促進されます。しかし、呼吸をしても空気中の酸素濃度が低いと、かえって血液中の酸素が空気中に放出され、酸素欠乏状態が悪化するという悪循環に陥ります。一度、酸素濃度が低い空気を吸ってしまうと、呼吸を繰り返すほどに危険な状態に陥る可能性があるのです。

気づきにくい危険性：初期症状と危険場所

酸素欠乏症の初期症状は、眠気や軽いめまいなど、特徴的な症状がないため、自覚しにくい点が大きな問題です。息苦しさは、二酸化炭素濃度の上昇によるもので、酸素濃度が低いこととは直接関係ありません。そのため、酸素不足に気づかず、危険な場所へ深く入ってしまうケースや、救助しようとした人が昏倒してしまうケースも発生しています。

酸素欠乏症は、タンク、井戸、洞窟、地下室、廃坑など、換気が不十分な閉鎖空間で起こりやすいです。また、乾性油の塗装後、沼地からのメタンガス発生、土壌中のマンガンや鉄分の酸化、廃坑内のメタンガスや一酸化炭素の蓄積など、様々な要因で酸素濃度が低下する可能性があります。さらに、マンホール内、下水道、野菜や穀物の貯蔵庫、おがくず倉庫、金属倉庫なども危険な場所として挙げられます。

これらの場所では、微生物の活動や金属の酸化によって酸素が消費され、酸素濃度が低下します。「植物は常に酸素を作る」という誤解も危険です。暗室では植物の光合成よりも呼吸による酸素消費が上回るため、酸素濃度が低下する可能性があります。

また、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを直接吸引したり、これらのガスが充満した狭い空間に入ることも危険です。特に、ヘリウムガスを誤って吸引することで死亡事故が発生するケースもあります。

症状：段階的な悪化

酸素濃度の低下に伴い、症状は徐々に悪化していきます。酸素濃度16%では呼吸数や脈拍数の増加、頭痛、吐き気、集中力の低下などが現れ、12%では筋力低下、めまい、吐き気、体温上昇などが現れます。さらに酸素濃度が低下すると、顔面蒼白、チアノーゼ、意識不明、嘔吐、昏睡、痙攣、呼吸停止といった深刻な症状が現れ、死に至る可能性があります。

予防と対策：安全な作業環境の確保

酸素欠乏症による労働災害を防ぐためには、作業前の環境測定、適切な換気設備の設置、個人用保護具の着用などが重要です。日本では、酸素欠乏症等防止規則が定められており、危険場所での作業には作業主任者の選任、作業環境測定の実施が義務付けられています。

酸素欠乏症は、適切な知識と対策によって防ぐことができる危険です。閉鎖空間に入る際には、必ず換気を確認し、酸素濃度を測定することが大切です。万が一、酸素欠乏症の症状が現れた場合は、速やかに安全な場所へ避難し、新鮮な空気を吸い、医療機関を受診する必要があります。

参考文献

高橋茂樹 編集『公衆衛生対策口座』株式会社MEC、2004
高橋茂樹 他『STEP公衆衛生第5版』海馬書房、2002-10-22、ISBN 4-907704-20-8
* 『新酸素欠乏危険作業主任者テキスト』中央労働災害防止協会、2007（第10版）

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