重松敏則

重松 敏則

重松 敏則（しげまつ としのり、1945年6月16日 - 2016年8月22日）は、日本の造園家であり、自然環境の保全および復元に関する分野において顕著な功績を残しました。愛媛県に生まれた重松氏は、農学博士号を取得後、教育・研究者として九州大学にて長年にわたり教鞭を執り、同大学の名誉教授の称号を授与されています。

氏の専門分野は、単に庭園や景観の設計にとどまらず、より広範な意味での「環境」に及びました。特に、里山や田園環境といった、人と自然が古くから共存してきた二次的自然環境の保全と再生は、氏のライフワークの一つでした。これらの環境が持つ生物多様性や文化的価値を再認識し、その維持・回復に向けた実践的な研究を展開しました。また、研究成果を広く社会に還元するため、市民参加の重要性を強く提唱しました。環境問題の解決には、専門家だけでなく、地域住民や市民が主体的に関わることが不可欠であると考え、市民参加型の保全活動を推進するためのシステム開発や、そのための環境教育プログラムの構築にも尽力しました。

重松氏の研究と実践は、環境教育の分野にも深く関わっています。特に、農山村の地域資源を活用した環境教育や、青少年を対象とした農林体験が、環境認識や景観認識、さらには連帯意識に与える効果に関する研究は、次世代を担う人材の育成という視点から大きな意義を持ちます。また、生態系の保全に不可欠なビオトープの管理や活用に関する研究も行い、その成果は実用的なガイドラインや著作としてまとめられました。都市の水辺といった、身近な環境の質を高めるための取り組みにも目を向け、多様な視点から環境問題に取り組んでいます。

教育・研究機関での活動と並行して、重松氏は社会における実践活動にも精力的に取り組みました。NPO法人日本環境保全ボランティアネットワーク（JCVN）の理事長として、多くのボランティアや市民とともに、全国各地で自然環境の保全・再生プロジェクトを推進しました。里山・里地・里海といった多様な生態系の再生に向けた活動は、地域レベルでの環境改善に貢献するだけでなく、人々の環境意識を高める上でも重要な役割を果たしました。また、自然環境復元学会の九州支部長や、NPO法人自然環境復元協会の理事といった要職を歴任し、学術的な知見と実践的な技術を結びつけ、環境復元の研究と普及に貢献しました。

氏の思想や研究成果は、多くの著作として世に問われました。代表的な編著書には、『新しい里山再生法』、『市民による里山の保全・管理』、『里山の自然をまもる』（共著）、『ビオトープの管理・活用』（共著）、『よみがえれ里山・里地・里海』（JCVN編著）などがあり、これらの著作は、里山保全、環境教育、市民参加、自然再生といった現代の環境問題に対する重要な示唆を与えています。また、『地域と自治体』といった著作からは、環境問題が地域社会や自治体のあり方とも密接に関わるという視点も持ち合わせていたことが伺えます。

重松敏則氏は、学術研究、教育、そして社会実践の三位一体の活動を通じて、日本の自然環境保全に多大な足跡を残しました。2016年8月22日、慢性呼吸不全急性増悪のため、71歳でその生涯を閉じましたが、その功績は、多くの研究者、実践家、そして市民に引き継がれています。

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