野ばら (映画)

1957年にオーストリアで製作された映画『野ばら』（原題：Der Schonste Tag meines Lebens）は、激動の時代を背景に、一人の少年が逆境を乗り越え、希望を見出す姿を描いた感動的な作品です。日本でも公開され、当時の文部省から特選に選ばれるなど、高い評価を受けました。

物語の中心となるのは、1956年に発生したハンガリー動乱の混乱を逃れてオーストリアへたどり着いた少年トニー。故郷を追われた彼は、愛犬フロッキと共に異国の地で孤独な日々を送っていました。ある日、バスに乗り遅れて途方に暮れていたトニーは、心優しい元汽船船長の老人ブリュメルと出会います。ブリュメルはトニーとフロッキを助け、三人（と一匹）は共に穏やかで楽しい時間を過ごすようになります。

やがてトニーは、教会で耳にしたウィーン少年合唱団の清澄な歌声に深く心を奪われます。その美しさに魅了された彼は、いつか自分もあの合唱団の一員になりたいという夢を抱くようになります。ブリュメルはトニーに音楽の才能があることを見抜き、彼の将来の幸せを願って、ウィーン少年合唱団への入団を後押しすることを決意します。

ブリュメルの助けを得て合唱団を訪れたトニーは、理解ある団長の温かい計らいによって、念願の入団を果たします。天性の歌声と愛らしい人柄により、トニーはすぐに合唱団の仲間や寮の職員たちからも慕われる存在となり、充実した日々を送るようになります。

しかし、合唱団がアメリカ演奏旅行を控えたある日、寮内で予期せぬ事件が発生します。寮母マリアの部屋から高額な紙幣が盗まれるという出来事です。この窃盗事件の容疑が、無実のトニーに向けられてしまうのです。憧れの合唱団での生活、そして未来への希望が、一転して危機に瀕することとなります。

本作の脚本は、監督も兼任したマックス・ノイフェルドがカール・ライターと協力して書き下ろしました。残念ながら、ノイフェルドにとって本作が遺作となりました。劇中では、中心的存在であるウィーン少年合唱団が美しい歌声を披露しており、特にこの映画のために作られたオリジナル曲「陽の輝く日」「歌声ひびけば」や、シューベルトの「アヴェ・マリア」、タイトルにもなっているハインリッヒ・ヴェルナーの「野ばら」といった名曲が物語を豊かに彩っています。少年合唱団の純粋な歌声が、トニーの心の機微や物語の展開を感動的に引き立てる、音楽とドラマが見事に融合した作品です。

キャストに関する詳細な情報は本稿では割愛しますが、日本の劇場公開時にはコスモプロモーション制作による日本語吹き替え版も存在したことが知られています。この映画は、困難な状況下でも夢を追い続ける少年の姿と、彼を支える人々の温かい心を通じて、希望と感動を与えてくれる普遍的な魅力を持っています。

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