野中到 (気象学者)

野中到：富士山頂での気象観測に生涯を捧げた情熱家

野中到（のなか いたる）は、明治時代に富士山頂での気象観測に生涯を捧げた日本の気象学者です。彼は、妻である千代子と共に、当時未踏の地であった富士山頂での越冬観測を試み、その情熱と勇気は多くの人々に感銘を与えました。

生涯

1867年、福岡藩士の息子として生まれた野中到は、大学予備門（現東京大学）を中退後、富士山頂での気象観測所の設立を志します。当時、高山での観測は年に数回しか行われておらず、野中は富士山での年間観測を目指しました。

1895年、野中は冬季に富士山に初登頂し、山頂での越冬が可能であることを確信しました。同年夏には、私財を投じて山頂に観測用の小屋を建設し、中央気象台の技師たちと観測を開始しました。しかし、食料調達のために一時下山した後の10月、妻の千代子と共に再び登頂しましたが、高山病と栄養失調により体調を崩してしまいます。

12月には、弟の野中清らによって夫妻の体調不良が発覚し、中央気象台の和田雄治技師らの救援によって下山、その後回復しました。この決死の挑戦は当時大きな話題となり、小説や劇にもなりました。越冬観測は断念したものの、野中の情熱は1899年の富士観象会設立に繋がり、本格的な観測所の建設へと進んでいきました。

業績

野中到の最大の業績は、富士山頂での気象観測の先駆けとなったことです。彼の粘り強い努力と情熱は、その後の富士山測候所の設立、ひいては日本の気象学の発展に大きく貢献しました。また、彼の観測記録は貴重な資料として後世に引き継がれています。

家族

妻の千代子は、福岡藩の能楽師の娘であり、野中の観測活動を支え続けました。彼女もまた、高山病に苦しみながらも観測を続け、その献身的な姿勢は多くの人々の心を打ちました。

野中夫妻を題材にした作品

野中夫妻の富士山頂での越冬観測の試みは、多くの小説や劇、映画、テレビドラマの題材となりました。特に有名な作品としては、新田次郎の小説『芙蓉の人』が挙げられます。この作品は、野中夫妻の情熱と困難を乗り越える姿を描き、多くの読者に感動を与えました。

小説

落合直文『高嶺の雪』(1896年)
新田次郎『芙蓉の人』(1971年)

映画

『富士山頂』(1948年)　新東宝
『富士山頂』(1967年)　東映

テレビドラマ

『芙蓉の人』(1973年) NHK
『芙蓉の人』(1977年) 12ch
『芙蓉の人』(1982年) NHK
『芙蓉の人〜富士山頂の妻』(2014年) NHK

年譜

1867年：筑前国に生まれる
1889年：大学予備門中退
1892年：梅津千代子と結婚
1895年：富士山頂通年観測のため冬季登山。
富士山頂に日本初の富士気象観測所を建設。
千代子と共に気象観測を開始。
病気のため越年観測を断念し下山。
1901年：著書『富士案内』刊行
1905年：御殿場馬車鉄道を買収し個人で運営
1923年：千代子死去
1955年：死去、87歳

著書

野中至・野中千代子『富士案内 芙蓉日記』（大森久雄・編）平凡社ライブラリー、2006年

参考文献

林栄子『近代医学の先駆者 三浦謹之助』 2011年 叢文社

関連項目

御殿場馬車鉄道
富士山測候所
芙蓉の人〜富士山頂の妻

外部リンク

野中 至：作家別作品リスト - 青空文庫
『野中到『富士案内』、春陽堂、1901年』 - 国立国会図書館デジタルコレクション
『落合直文『たかねの雪』、明治書院、1896年』 - 国立国会図書館デジタルコレクション

野中到は、富士山頂での気象観測に情熱を燃やし、その夢を実現するために困難に立ち向かった人物です。彼の生涯は、私たちに目標に向かって諦めずに努力することの大切さを教えてくれます。

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