野口伸

野口 伸：日本の農業技術を革新する農業工学者

野口伸氏は、1961年北海道三笠市生まれ、山口県下関市育ちの農業工学者です。北海道大学大学院農学研究院研究院長・教授として、日本の農業技術の未来を担う重要な役割を担っています。専門は農業情報工学と農業ロボット工学であり、その研究は食料生産システムのロボット化やICT化に焦点を当てています。

北海道大学での研究生活とキャリア

山口県立豊浦高等学校卒業後、「生まれ故郷で農業の勉強をしたい」という強い思いから北海道大学農学部に入学しました。1990年に北海道大学大学院農学研究科農業工学専攻博士課程を修了後、同大学農学部助手として研究生活を始めます。その後、助教授、教授へと昇進し、北海道大学において長年に渡る研究活動に携わってきました。

2016年から2019年には、内閣府戦略的イノベーション創造プログラム（SIP）第1期「次世代農林水産業創造技術」プログラムディレクターを務め、日本の農林水産業の技術革新をリードしました。SIP第2期「スマートバイオ産業・農業基盤技術」ではプログラムディレクター代理として引き続き貢献しています。

多岐にわたる研究活動

野口氏の研究活動は多岐に渡ります。大学院博士課程では、アルコールディーゼル機関に関する研究を行い、アルコールの完全燃焼を促進するための超音波微粒化供給法の開発や、軽油・アルコール燃焼解析、軽油・アルコールの2燃料制御法の研究に携わりました。この経験は、後の農業ロボット制御に関する研究の基礎となりました。

1992年から本格的に農業ロボットの研究に着手。国内をリードする研究機関である生研機構基礎技術研究部（現：農研機構農業技術革新工学研究センター）に交流研究員として所属し、農林水産省の研究開発プロジェクトにも参加しました。自動追尾機能を持つ耕うんロボットの開発など、数々の成果を挙げています。

1997年には米国イリノイ大学に留学し、John F. Reid教授の下でGPSベースのロボットトラクタ開発や、作物の生育状態をリアルタイムで検出できるMSIS（Multi-spectral imaged system）の研究に従事しました。特に、自然環境下での自律走行を安定させるためのGPSを中核としたマルチセンサフュージョンの研究は画期的でした。帰国後も、CNH、イリノイ大学、北海道大学との共同研究を行い、イリノイ大学客員准教授を併任しました。

その後も、国内外の研究機関と連携し、複数ロボットの協調作業法、最適運用法などの理論研究、低空・衛星リモートセンシングなど精密農業に関する研究を推進。近年はJAXAと共同で準天頂衛星システムを利用した農業ロボット研究や、作物窒素ストレスセンサ、小麦タンパク含量センサの開発など、農業のICT化を牽引する研究を行っています。

受賞歴と社会貢献

野口氏の研究業績は高く評価されており、国内外の多くの賞を受賞しています。代表的な賞には、農業機械学会研究奨励賞、日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス部門賞、農業機械学会学術賞、国際農業工学会(CIGR)技術貢献賞、Distinguished Visiting Fellowship Award (Royal Academy of Engineering, UK)などがあります。

また、日本生物環境工学会理事長、日本学術会議連携会員として、学会活動にも積極的に参加。植物工場のシステム工学的な観点からの論説、提言なども行い、日本の農業技術の発展に貢献しています。

著書

野口氏は、多くの著書や共著も出版しており、その知識と経験を広く社会に共有しています。主な著書には、『生物生産のための制御工学』、『新農業情報工学』、『農業[ロボット](II)』、『精密農業』、『太陽光植物工場の新展開』、『スマート農業』などがあります。

まとめ

野口伸氏は、卓越した研究能力とリーダーシップを持ち、日本の農業技術の進化に大きく貢献してきた農業工学者です。その研究は、食料生産の効率化、持続可能性の向上に繋がっており、今後の日本の農業発展に欠かせない存在といえるでしょう。今後の活動からも目が離せません。

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