野屋根

野屋根（のやね）について

野屋根とは、主に日本の伝統建築において使用される屋根の形態で、化粧垂木（けしょうだるき）と野垂木（のだるき）から構成されています。特に平安時代から盛んに用いられ、特有の美しさと機能性を併せ持つこの構造は、日本建築における重要な特徴の一つです。

野屋根以前の日本建築

日本の建築様式の中で、野屋根が登場する以前は、屋根の形状や構造は現在とは異なっていました。当時、屋根は棟木から地垂木を伸ばし、その上に木舞や板を張る方法が一般的でした。このことから、垂木と屋根の勾配が一致する傾向がありました。唐の影響を受けた屋弛みと呼ばれる曲線が日本独自の技法として確立されており、木材が豊富であった日本では、長い材を使うことが多かったため、屋根が下がるという問題もありました。

この欠点を克服するため、地垂木から飛檐垂木を延ばす二軒の形式が発展しました。しかし、この方法にも雨漏りのリスクがあり、意匠と機能性を両立させるために様々な工夫が重ねられました。特に、屋根が重くなりすぎないよう勾配を抑え、雨水の流れを考慮した構造が求められるようになりました。

野屋根の誕生

野屋根の技術自体は奈良時代から存在しましたが、平安時代中期には化粧垂木と野垂木を別々に配置する技術が発展しました。代表例として、法隆寺大講堂（正暦元年・990年再建）が挙げられます。この建物の小屋組みは、後世に変化が見られますが、古材や痕跡から当時の技術が復元されています。また、平等院鳳凰堂（天喜元年・1053年）では、葺土の節約と曲面の調整のために野小屋が採用されたことが知られています。

さらに、当麻寺本堂（永暦2年・1161年）では、野小屋の技法がより複雑な空間での屋根再編成に応用され、和様建築の進化を示す重要な例となっています。

桔木の導入

屋根裏空間が広がるにつれ、その支持のために桔木（はねぎ）が導入されるようになりました。この部材は、軒桁に水平に配置され、テコの原理を利用して軒を支える構造になっています。桔木の採用により、それまでの組物や垂木の負担を大きく軽減しました。たとえば、法隆寺夢殿では、鎌倉時代の改築時に桔木が導入され、屋根の出が従来の40%増しにまでなっています。

桔木の設計が進化する中で、先端を母屋で受ける方法や、野垂木に受け材を用いる新しい技法が生まれました。室町時代中期以降、桔木に金具を使った技法も開発され、飛檐垂木の吊り下げが可能になり、屋根の延長性が向上しました。たとえば、玉鳳院開山堂では、1538年頃に遡る金具が使用されています。

まとめ

野屋根は、日本の伝統建築が築いてきた長い歴史と工夫の結果生まれた独自の技術です。美しさとのバランスを追求しながら、機能性にも配慮されたこの構造は、いまもなお日本の文化と建築に重要な影響を与え続けています。

もう一度検索