野本三吉

野本三吉：教育、福祉、地域社会への情熱を注いだ生涯

野本三吉（のもとさんきち）は、1941年 11月30日生まれの日本の教育学者、評論家、ノンフィクション作家です。本名は加藤彰彦（かとうあきひこ）といい、横浜市立大学の名誉教授であり、沖縄大学の元学長、同大学の名誉教授でもあります。東京都墨田区出身。

教育者としての出発点と原点

1964年に横浜国立大学教育学部教育学科を卒業後、横浜市内の小学校教員として教育の現場に立ちました。その後、4年余りにわたり日本各地を放浪し、共同体巡りを経験。この時期の経験が、後の社会福祉への関心や地域社会への視点を形成する原点となりました。沖縄子ども研究会にも所属し、子どもたちへの深い愛情と教育への熱意を育みました。

行政と大学での活動

1972年からは横浜市役所に勤務し、寿生活館の相談員や児童相談所の児童福祉司（ソーシャルワーカー）として、社会の最前線で活動しました。この経験から、社会のひずみや貧困問題に対する深い洞察を得ました。横浜市役所退職後、横浜市立大学文理学部助教授に就任し、1991年に教授となりました。1995年からは同大学国際文化学部教授として社会福祉論を担当し、後進の育成に尽力しました。

2002年には沖縄大学教授に就任し、2012年から2014年まで学長を務めました。沖縄の地で、教育の機会均等や地域社会の発展に貢献。学長退任後は、かつて職員として活動していた横浜市に戻り、中区寿町で街の歴史をまとめる活動に尽力しています。

著書に見る思想と活動

野本三吉は、多数の著書を通じて、教育、社会福祉、地域社会に関する深い洞察を提示しています。

初期の著作には、『不可視のコミューン自己教育の足跡』(1970)や『爆破人間原型論序説』(1971)などがあります。これらの作品は、自己探求と社会への問いかけがテーマとなっています。また、『いのちの群れ』(1972)では、共同体のあり方や人間の根源的なつながりについて考察しています。

横浜市役所での経験を基にした著書も多く、『裸足の原始人たち寿地区の子ども』(1974)や『寿生活館ノート職場奪還への遠い道』(1977)は、社会の底辺で生きる人々の姿を描いています。これらの作品は、社会福祉の実践に携わる人々にとって、貴重な資料となっています。

児童文学にも造詣が深く、『親とは何か N子への手紙』(1982)や『空にでっかい雲がわく』(1983)など、子どもたちの成長や心の機微を捉えた作品を執筆。また、『戦後児童生活史子どもたちの原像を求めて』(1981)では、戦後の子どもたちの生活史を振り返り、現代社会における子どものあり方を考察しています。

近年では、『海と島の思想琉球弧45島フィールドノート』(2007)や『沖縄・戦後子ども生活史』(2010)など、沖縄をテーマにした著作も発表。沖縄の歴史や文化、社会問題への関心がうかがえます。

『貧困児童子どもの貧困からの脱出』(2016)や『まちに暮らしの種子(たね)を蒔くいま、この時代を生き抜くために』(2018)など、現代社会の課題に積極的に取り組む姿勢も示しています。

2023年には、『水滴の自叙伝　コミューン、寿町、沖縄を生きて』を発表。自らの人生を振り返り、その思想と活動を総括しました。

多岐にわたる分野での貢献

野本三吉は、教育、社会福祉、地域社会の多岐にわたる分野で貢献しており、その活動は、多くの人々に影響を与えています。教育者としては、子どもたちの可能性を信じ、主体的な学びを促す教育を実践。社会福祉の実践家としては、社会のひずみに苦しむ人々に寄り添い、その生活を支える活動を行いました。また、評論家、作家としては、社会の課題を鋭く指摘し、人々に新たな視点を提供しています。

野本三吉の生涯は、教育、福祉、地域社会への深い愛情と情熱に彩られています。

主な著書リスト

『不可視のコミューン自己教育の足跡』社会評論社 1970
『爆破人間原型論序説』青林社 1971
『いのちの群れ』社会評論社 1972
『裸足の原始人たち寿地区の子ども』田畑書店 1974
『太陽の自叙伝』柏樹社 1976
『寿生活館ノート職場奪還への遠い道』田畑書店 1977
『個人誌・生活者横浜・寿地区からの通信』増補改訂版社会評論社 1979
『戦後児童生活史子どもたちの原像を求めて』協同出版 1981 教職課程新書
『親とは何か N子への手紙』筑摩書房・ちくま少年図書館 1982
『風の自叙伝』新宿書房 1982
『空にでっかい雲がわく』フレーベル館 1983 いま、子どもたちは
『地域からの教育づくり親とは何か、学校とは何か』矢田同和教育推進協議会学習パンフ 1983
『いのちの群れ共生・共死の原像』社会評論社 1985
『子どものいる風景孤立から自立への闘い』国土社の教育選書 1986
『風になれ!子どもたち児童ケースワーカー・十年の記録から』新宿書房 1992
『近代日本児童生活史序説』社会評論社 1995
『野本三吉ノンフィクション選集』全6巻新宿書房 1996-2004
『社会福祉事業の歴史』明石書店 1998
『子ども観の戦後史』現代書館 1999
『父親になるということ』海竜社 1999
『生きる場からの発想民衆史への回路』社会評論社 2001
『生活者野本三吉個人誌 1972-2002』第1~3分冊社会評論社 2003
『海と島の思想琉球弧45島フィールドノート』現代書館 2007
『沖縄・戦後子ども生活史』現代書館 2010
『貧困児童子どもの貧困からの脱出』創英社・三省堂書店 2016
『まちに暮らしの種子(たね)を蒔くいま、この時代を生き抜くために』社会評論社 2018
『水滴の自叙伝　コミューン、寿町、沖縄を生きて』現代書館 2023

共編著

『教育実践の記録 8 地域からの教育づくり』編集筑摩書房 1981
『21世紀の子どもと教育』編著社会評論社 1985
『現代子ども・若者考自分さがしのジレンマ』石川恵美子共編明石書店 1991

評伝

* 『命の旅人　野本三吉という生き方』大倉直　現代書館 2014

もう一度検索