野獣戦争

野獣戦争（Trouble Man）

1972年に20世紀フォックスが製作・配給したアメリカ映画で、ブラックスプロイテーション・ジャンルの一本です。主演はロバート・フックスが務め、主人公の「ミスターT」を演じました。この映画は当時の興行収入においては成功を収めることはできませんでしたが、マーヴィン・ゲイが作曲、制作、演奏、そして歌唱を担当したそのサウンドトラックは、現在に至るまで高い評価を受け続けています。

音楽の重要性

本作の音楽は、映画自体の評価を超えて特筆すべき存在です。当時、アイザック・ヘイズやカーティス・メイフィールドといった他のソウルミュージック界のスターたちと同様に、マーヴィン・ゲイもまた、アフリカ系アメリカ人の観客層を強く意識して作られたブラックスプロイテーション映画への楽曲提供の機会を模索していました。映画『野獣戦争』自体は商業的に振るわなかったにもかかわらず、同名タイトルのサウンドトラックアルバム『Trouble Man』と、そこからのシングルカットは、マーヴィン・ゲイにとって大きな商業的成功をもたらしました。彼のソウルフルな楽曲は、映画の雰囲気を見事に捉え、登場人物、特に主人公Tの孤独や葛藤、そして都会の冷たい風景を鮮やかに描き出しています。このサウンドトラックは、ブラックスプロイテーション映画の音楽としても、またゲイ自身のキャリアにおける傑作としても、今日なお多くの人々に聴き継がれています。

あらすじと主人公「T」

物語は、ロサンゼルスのインナーシティ、サウスセントラルを舞台に展開します。主人公「T」（ロバート・フックス）は、単なる私立探偵という枠に収まらない、多面的な顔を持つ人物です。彼はハスラーとしての抜け目のなさ、ゲットーで起きる様々なトラブルを解決する調停者、そして独自の正義感に基づいて行動するアウトロー的な探偵の顔を併せ持ちます。Tは、サウスセントラルのビリヤード店を活動拠点とし、その暮らしぶりは裕福です。最新型の車を乗り回し、洗練された高級スーツを身にまとい、広々としたアパートメントに暮らしています。

しかし、Tはただ裕福なだけでなく、自分が暮らすブロックの人々のことも気にかけており、警察組織とも裏社会のギャングたちとも独自の繋がりを保ちながら、法の内外における善悪を鋭く見抜く洞察力を持っています。物語は、地元でサイコロ賭博を仕切るチョーキー（ポール・ウィンフィールド）とその相棒ピート（ラルフ・ウェイト）がTに接触し、最近多発している覆面グループによる賭場荒らしの犯人特定を依頼するところから始まります。Tはプロとしてこの依頼を引き受け、それ相応の報酬を要求します。

ところが、この依頼はチョーキーとピートが仕組んだ巧妙な罠であることが後に明らかになります。彼らはライバル組織のボスであるビッグ（ジュリアス・W・ハリス）を捕らえ、その部下を殺害。その罪をTに着せようと画策していたのです（Tは既に銃で脅され、犯罪現場に立ち会わされていました）。この陰謀によって、Tは裏社会のボスであるビッグと、警察のジョー・マルクス警部（ビル・スミサーズ）という、全く異なる二つの勢力から同時に追われる身となります。しかし、Tは持ち前の機知と行動力で幾多の危うい状況を切り抜け、最終的には自らの生存と自由を守るため、敵を出し抜くことを決意します。映画には、Tの恋人役としてポーラ・ケリーも登場し、物語に彩りを添えています。

評価と位置づけ

前述の通り、映画『野獣戦争』は興行的に成功しませんでした。また、マイケルとハリーのメドヴェド兄弟が1978年に発表した著書『The Fifty Worst Films of All Time』（史上最低映画50本）にも取り上げられており、映画自体の評価は決して高いものではありません。しかし、その一方でマーヴィン・ゲイによるサウンドトラックは普遍的な輝きを放っており、この映画を語る上で欠かせない要素となっています。ブラックスプロイテーション映画としては、犯罪ドラマとしての側面が強く、主人公Tのクールで一匹狼的なキャラクター造形は、同ジャンルの他の作品にも影響を与えたと言えるでしょう。映画の評価は分かれるものの、そのサウンドトラックは多くのリスナーに愛され続けています。

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