野菊よ 僕は…

『野菊よ 僕は…』 村下孝蔵 9thアルバム

村下孝蔵が1989年にリリースした、通算9作目のオリジナルアルバムが『野菊よ 僕は…』です。前作から約1年半の期間を経て発表された本作は、彼のキャリアにおける重要な位置を占める一枚と言えます。叙情的な歌声とメロディ、情景描写に富んだ歌詞が特徴の村下孝蔵の世界観が、このアルバムでも存分に展開されています。

本作には、先行シングルとしてリリースされた「ソネット」が収録されています。「ソネット」は、村下孝蔵らしい切ないメロディと普遍的な感情を描いた歌詞が多くのリスナーの心に響いた楽曲であり、このアルバムの中心的な存在の一つとなっています。また、「ソネット」のカップリング曲である「禁じられた遊び」もアルバムに収められており、シングル両A面のような形で楽しむことができます。

アルバム全体を通じて、人間の内面や日常に潜む機微を丁寧に描き出す村下孝蔵のソングライティングが光ります。恋の始まりや終わり、人生の儚さや尊さといったテーマが、彼ならではの繊細な言葉選びと心に染み入るメロディによって紡ぎ出されています。編曲は多くの楽曲を水谷公生が手掛けており、村下孝蔵の歌声と楽曲の持つ雰囲気を最大限に引き出すような、抑制が効きつつも情感豊かなサウンドプロダクションとなっています。収録曲のうち「おやすみ」の編曲は村下孝蔵自身が担当しており、彼のセルフプロデュースによる音作りも聴きどころです。

『野菊よ 僕は…』には、アルバムタイトルと同名の「野菊よ」をはじめ、「恋路海岸」「小指」「平凡」「幸せのメロディー」「水無月十三夜」「読み人知らず」といった、タイトルを見ただけでも様々な情景や感情が想起されるような全10曲が収められています。それぞれの楽曲が独立した物語を持ちつつも、アルバム全体を通して一貫した空気感が流れており、一枚の作品として完成度の高い仕上がりとなっています。

以下に、アルバム『野菊よ 僕は…』の収録曲リストを示します。全曲の作詞・作曲は村下孝蔵が行っています。

1. 恋路海岸
2. 小指
3. 平凡
4. 禁じられた遊び（「ソネット」カップリング曲）
5. ソネット（先行シングル曲）
6. 幸せのメロディー
7. 野菊よ
8. 水無月十三夜
9. 読み人知らず
10. おやすみ

編曲は、特記がない限り水谷公生が担当しています。トラック10「おやすみ」のみ、村下孝蔵自身が編曲を手掛けました。

本作は、リリースから数年後の1996年には、多くのファンからの要望に応える形でCD選書として再リリースされています。これにより、初期のCDを買い逃したリスナーや、新たに村下孝蔵の世界に触れた人々にとって、手に入りやすい形でこの名作にアクセスする機会が提供されました。

『野菊よ 僕は…』は、村下孝蔵のキャリアの中でも円熟期に差し掛かった時期の作品であり、彼の持つ独特な音楽性と、普遍的な情感表現が見事に融合したアルバムです。彼のファンはもちろんのこと、繊細な日本語の歌詞と美しいメロディを愛する音楽ファンにとって、心に寄り添うような一作となるでしょう。このアルバムを通じて、村下孝蔵の紡ぎ出す詩情豊かな世界をぜひ体験してみてください。

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