野長瀬晩花

野長瀬晩花：大正期の日本画壇を彩った革新家

野長瀬晩花（のながせ ばんか、1889年8月17日-1964年3月31日）は、和歌山県田辺市出身の日本画家です。明治から昭和にかけて活躍し、特に大正時代の日本画界に大きな足跡を残しました。資産家の家に生まれた晩花は、14歳で大阪に出て円山派の中川蘆月、その後は京都の谷口香嶠に師事し、画技を磨きました。

京都市立絵画専門学校（現・京都市立芸術大学）在学中は、小野竹喬や土田麦僊といった同世代の才能と交流を深めつつ、独創的な画風を模索しました。在学中は授業を欠席するなど型にはまらない自由な姿勢を貫き、2年後に退学しています。退学後は、秦テルヲや竹久夢二ら、当時進歩的な若手芸術家たちと交友を深め、刺激的な環境の中で独自の表現を追求していきました。

晩花は、日本画に洋画的手法を取り入れるという当時としては斬新な試みに挑戦しました。その結果、京都の公募展で高い評価を得る作品を発表するに至ります。しかし、当時の官展である文展では、その洋画的画風はなかなか受け入れられませんでした。そのため、大正2年（1913年）、秦テルヲと共に京都の文展会場前にテントを張り、「バンカ・テルヲ展」を開催。これは官展への反発を示す、鮮烈な行動でした。

その後、土田麦僊らと共に、より自由な創作活動を志向する画家たちによって国画創作協会が設立されます。晩花も創立メンバーの一人として参加し、同年の第1回国展に出品した《初夏の流》は、大胆な筆致と官能的な表現で大きな話題を呼び、一躍有名になりました。続く第2回国展の《休み時》、第3回国展の《夕陽に帰る漁夫》も、従来の日本画にはない、量感を強調した陰影法と鮮やかな原色の使用が特徴的でした。これらの作品は、晩花の画風が如何に革新的であったかを示しています。

大正10年から11年にかけては、土田麦僊、小野竹喬らと共にヨーロッパへ渡欧しました。渡欧によって、それまでの自由奔放な作風は変化を見せ始めます。依然として洋画的な表現は維持しつつも、次第に日本の古典的な題材や手法を取り入れるようになりました。国展への出品は第6回を最後に途絶え、晩花は中央画壇から離れていきます。

晩年は満州旅行を題材にしたスケッチ展などを開催する一方、戦中から戦後にかけては信州に疎開。地元の画家や歌人たちと「白炎社」を結成し、郷土の芸術文化振興に尽力しました。これは、晩花の芸術家としての活動が、絵画制作にとどまらず、地域社会への貢献という側面も持ち合わせていたことを示しています。

1964年、東京都狛江市で75歳で亡くなりました。その功績は、長男である映画監督の野長瀬三摩地にも受け継がれていると言えるでしょう。晩花の生涯は、時代の変遷と葛藤しながらも、常に革新的な表現を追求し、日本の芸術文化の発展に貢献した、稀有な日本画家の生き様を示しています。晩花の画業は、日本の近代日本画史において重要な位置を占めていると言えるでしょう。

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