金の尾遺跡

金の尾遺跡

金の尾遺跡は、山梨県甲斐市大下条に位置する複合遺跡で、縄文時代前期末から縄文中期、弥生時代後期、古墳時代前期・後期、そして平安時代にかけての集落や墓域の跡が確認されています。この遺跡は、特に弥生時代後期の集落が山梨県内最大級であること、また、出土する遺物の種類が豊富であることから、注目を集めています。

立地と周辺環境

遺跡は、甲府盆地の北西部、奥秩父山地に源を発する荒川の右岸に位置しています。具体的には、荒川が形成した扇状地の南端部にあたる沖積地と、西側の赤坂台地との境界を流れる貢川の自然堤防上にあります。標高は約285メートルです。遺跡の規模は、南北約400メートル、東西約300メートルの範囲に及ぶと推定されています。周辺は住宅地となっており、近隣には御岳田遺跡、三昧堂遺跡、末法遺跡などの遺跡が点在しています。

各時代の特徴

縄文時代

縄文時代の集落は、一般的に台地や扇状地上に立地する傾向がありますが、荒川右岸地域では、原腰遺跡や松ノ尾遺跡、甲府市の上石田遺跡などでも遺構や遺物が見つかっています。金の尾遺跡からは、縄文中期の建物跡が8軒確認されています。

弥生時代

周辺地域では弥生時代の遺跡の分布は比較的少ないですが、金の尾遺跡は古墳時代中期前半まで集落が継続しており、荒川右岸地域だけでなく山梨県全体で見ても、笛吹市の身洗沢遺跡などと並び、代表的な弥生集落として重要な位置を占めています。

古墳時代

古墳時代には、原腰遺跡や松ノ尾遺跡、御岳田遺跡などが存在していました。金の尾遺跡からも古墳時代の遺物が出土しています。甲府盆地では、前期古墳が曽根丘陵地域を中心に展開しますが、後期になると荒川右岸地域にも古墳を築造する勢力が現れます。金の尾遺跡近辺に古墳は見られないものの、荒川左岸には万寿森古墳や加牟那塚古墳、千塚・山宮古墳群、赤坂台地の赤坂台古墳群など、周辺には盆地北西部の勢力の痕跡が分布しています。松ノ尾遺跡からは古墳後期の遺構・遺物が出土しており、これらの造墓勢力が背景にあったと考えられていますが、金の尾遺跡では古墳後期の建物跡が1軒確認されているのみです。

奈良・平安時代

奈良・平安時代になると、荒川右岸地域における遺跡の数はさらに増加します。金の尾遺跡周辺では明瞭な遺構は見られないものの、古代甲斐国の巨摩郡に比定されるこの地域では、巨摩郡家の候補地である松ノ尾遺跡から墨書土器や金銅仏が出土しています。また、甲斐市天狗沢には天狗沢瓦窯跡があり、古代寺院で使用された瓦を生産していたと考えられています。このことから、この地域は巨摩郡において重要な地域であったと位置づけられています。

発掘調査の成果

金の尾遺跡は、1977年の中央自動車道建設計画に伴い発見され、1987年から2004年まで、山梨県埋蔵文化財センターや敷島町教育委員会によって7次にわたる発掘調査が実施されました。これらの調査により、弥生時代の建物跡、方形・円形周溝墓、土坑、V字溝などの遺構や、中部高地系土器、東海系土器、縄文時代の建物跡などが出土しました。特に弥生時代の建物跡からは、珍しい土偶も出土しています。

2004年の調査では、弥生時代の周溝墓、集落南側を囲む溝状遺構、古墳前期の周溝墓、5世紀初頭の壺型埴輪を伴う低墳丘墓などが発見されました。また、古墳中期の竪穴状遺構や周溝墓、建物跡なども確認され、台付甕などの土器類が出土しています。第5次調査では弥生末期の壺棺が出土し、第6次調査ではV字状環濠が検出されています。

出土遺物

出土土器は中部高地系と東海系土器が混在しており、地域間交流があったと考えられています。また、壺型埴輪は、県内では曽根丘陵地域での出土事例がありますが、金の尾遺跡では低墳墓系の2号周溝墓群から二重口縁部が出土し、4世紀末から5世紀初頭のものと考えられています。弥生後期の土坑からは、山梨県内では珍しいスカイブルーのガラス玉も出土しています。

まとめ

金の尾遺跡は、縄文時代から平安時代にかけての複合遺跡であり、特に弥生時代の集落跡は県内最大級の規模を誇ります。発掘調査によって、各時代の生活様式や文化、地域間の交流を示す貴重な遺構や遺物が発見されており、この地域の歴史を深く理解するための重要な手がかりとなっています。

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