金の鎖のネックレスとイヤリングをつけた毛皮の上着の自画像

レンブラントの自画像：毛皮のコートと金の鎖

レンブラント・ファン・レインが1655年に描いた『金の鎖のネックレスとイヤリングをつけた毛皮の上着の自画像』は、ウィーン美術史美術館に所蔵されている、数多くのレンブラントの自画像の中でも傑出した作品です。49歳のレンブラントは、黒い帽子をかぶり、毛皮の縁取りが施された茶色の外套を羽織り、自身の姿を胸像として描いています。

レンブラントは、やや左に体を向け、視線は正面ではなく右斜め前方へと注がれ、物憂げな表情を浮かべています。口ひげを蓄えた彼の姿は、襟のない赤い衣服の上に白いシャツの襟を覗かせ、その上からメダリオン付きの金の鎖のネックレスを身に着けています。さらに、耳には金のイヤリングを付けています。この衣服は、別のレンブラントの自画像にも見られるもので、白いシャツは防寒用の下着であるヘムトロックという、通常は人目に触れることのないものです。正式な肖像画では描かれることのなかったこの衣服が、レンブラントの自画像で用いられていることは注目に値します。

彼が被っている帽子はおそらくベレー帽ですが、多くの切れ込みが入った16世紀風のものです。当時のオランダにおいて、室内での帽子の着用は一般的でした。一方、金の鎖のネックレスは、芸術家の肖像画において長い歴史を持つモチーフで、高い名声や地位の象徴として機能しました。レンブラントはこの金の鎖によって、自身の高い評価や地位を示唆していると考えられます。

真筆性に関する議論

この作品は長年レンブラントの真筆とされてきましたが、1986年に美術史家クリスティアン・テュンペルがレンブラントの追随者による作品ではないかと疑問を呈して以来、その帰属については議論が続いています。その理由の一つとして、レンブラントの視線が鑑賞者に向けられていない点が挙げられます。通常、自画像は鏡に映った自分の姿を描き写すため、完成した作品では視線が鑑賞者に向けられるのが一般的です。しかし、この作品では視線が逸れているため、通常の自画像とは異なる手法が用いられたと見なされています。

これに対して、レンブラントは様々な主題において、従来とは異なる表現方法を模索していた画家であったという反論があります。この自画像においても、視線をそらすことで、新たな表現を試みたのではないかと考えられています。『レンブラント画集』第4巻(2005年)は、様式、品質、人相などの観点からレンブラントへの帰属を拒否し、工房作の可能性を示唆していますが、保存状態の悪さから断定は避けています。オランダ美術史研究所(RKD)では、レンブラント自身、あるいはレンブラントの工房による作品として扱われています。

科学的調査と来歴

X線撮影による科学的調査では、この自画像の下から、レンブラントが1654年に描いた『ダビデ王の手紙を手にしたバテシバの水浴』のバテシバの姿勢に非常に似た女性像が発見されています。この発見は、作品制作の過程や構想について新たな知見を与えてくれます。

初期の来歴は不明ですが、19世紀には初代カリスフォート伯爵ジョン・ジョシュア・プロビーが所蔵し、その後、詩人サミュエル・ロジャースを経て、パリの美術商、そしてドイツの銀行家ロベルト・フォン・メンデルスゾーンへと渡りました。最終的に、1942年にウィーン美術史美術館がフォン・メンデルスゾーンの未亡人から購入し、現在に至っています。

複製とまとめ

18世紀初頭には、レンブラントの追随者による模倣作品が制作されており、ミュンヘンのアルテ・ピナコテークに所蔵されています。

レンブラントの『金の鎖のネックレスとイヤリングをつけた毛皮の上着の自画像』は、その真筆性に関する議論、そして作品に隠された謎めいた要素など、様々な点で注目に値する作品です。レンブラントの晩年の作品として、彼の技術や内面を深く理解する上で重要な資料となっています。 この作品は、単なる肖像画を超え、芸術家の内面世界を映し出す鏡として、鑑賞者の心を捉えてやみません。

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