金沢市歌

金沢市歌（かなざわしか）

「金沢市歌」は、石川県金沢市が正式に定めた自治体の歌です。大正十二年（一九二三年）に制定され、作詞は鴻巣盛広（こうのすもりひろ）、作曲は金沢市唱歌研究会の名義とされています。

制定の経緯と背景

この市歌が生まれた背景には、当時の金沢市において重要な出来事がありました。制定された大正十二年は、現在の金沢百万石まつりの礎となる第一回金沢市祭が初めて開催された記念すべき年でした。市はこの盛大な祭りを祝し、また都市としてのアイデンティティを示す歌として市歌を制定することを決定しました。

作詞は、当時の著名な国文学者であり、旧制第四高等学校で教鞭をとっていた鴻巣盛広氏に依頼されました。彼は文学的な素養を活かし、金沢の歴史や風土、そして未来への希望を歌詞に込めました。

作曲名義となっている金沢市唱歌研究会は、石川師範学校で音楽教諭を務めていた大西安西（おおにしあんざい）氏が中心となり、市内の小学校の音楽教員らが集まって組織されていた研究団体です。彼らの共同作業によって、歌詞にふさわしい親しみやすい旋律が生み出されました。制定は、第一回市祭の開催を間近に控えた同年五月三十日付で告示されています。

受け継がれる伝統と二つの市歌

制定された「金沢市歌」は、早速その年の市祭で披露されました。特に、祭りのハイライトの一つであった提灯行列において、この市歌の演奏が行われるという伝統が生まれました。この慣例は、戦後、祭りの名称が現在の「金沢百万石まつり」と改称された後も受け継がれ、長年にわたり市民に親しまれてきました。

しかし、金沢市にはもう一つ、市歌と呼ばれる歌が存在します。昭和二十四年（一九四九年）は金沢市にとって市制六十周年を迎える節目の年であり、同時に戦災からの復興を目指す中で金沢市役所による新たな都市建設計画が策定された時期でもありました。これらの記念事業の一環として、新しく「金沢市民の歌」が作られました。通常、新たな市歌が制定されると古い歌は廃止されることが多いのですが、金沢市の場合は「金沢市歌」が廃止されることなく、新旧二つの歌が並立する形となりました。今日に至るまで、この二つの歌はそれぞれの場で歌い継がれています。

現代における活用

近年、「金沢市歌」は新たな形で市民に親しまれる機会を得ています。平成三十一年（二〇一九年）二月十二日からは、北陸鉄道石川線の起点駅である北鉄金沢駅において、列車の発車を知らせるメロディとして採用されました。この発車メロディは、地元の金沢市立工業高等学校の生徒たちが編曲したもので、若い世代の感性を取り入れたアレンジとなっています。これは、同時期に内灘駅で採用された「内灘町歌」の発車メロディと合わせて導入され、地域の歌を活用した駅の特色づくりに貢献しています。

著作権の状況

「金沢市歌」の歌詞および楽曲（旋律）については、著作権法が定める保護期間が満了しています。このため、現在はパブリックドメインとなっており、誰でも自由に使用、演奏、複製することが可能です。公的な場で歌われたり、様々なメディアで利用されたりしています。

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