金玉和歌集

金玉和歌集（きんぎょくわかしゅう）

平安時代中期に編まれた私撰の和歌集です。その成立は、当時の記録や状況証拠から、おおよそ寛弘4年（1007年）から同8年（1011年）の期間であると推定されています。この歌集は、公式な勅撰和歌集ではなく、個人の撰によってまとめられたものです。

歌集の巻頭には、編者として「倭歌得業生（わかごうぎょうしょう）・柿本末成（かきのもとのすえなり）」という名が記されています。しかしながら、当時の学問機関である大学寮には「倭歌得業生」という官職や称号が存在しないことから、この名は実在の人物ではなく、編者が用いた仮名（変名）であると考えられています。そして、この『金玉和歌集』の実際の編者は、平安時代を代表する歌人であり、歌人評や歌合の判定などでも活躍した藤原公任（ふじわらのきんとう）であるとする見方が有力です。

歌集の題名である「金玉和歌集」の由来については、『後拾遺和歌集』の序文において、編者自身が説明しています。それによれば、編纂にあたって「今も古も優れたる中にすぐれたる歌を書き出して黄金（こがね）の玉の集となる名づけたる」、すなわち、遠い昔から編纂された時点までの和歌の中から、特に優れた歌を選りすぐって集めた結果、まるで黄金や玉のように貴く価値ある歌集となったことから、このような名称を付けたとしています。

収録されている歌は、『万葉集』から編纂当時の寛弘期に至るまでの、時代の枠を超えて評価された優れた作品群です。歌集全体の構成は、大きく三つの部に分かれています。まず、巻頭に四季の歌が39首収められています。その内訳は、春歌が22首、夏歌がわずか2首、秋歌が7首、冬歌が8首となっており、春に最も多くの歌が割かれているのが特徴です。続いて、恋歌が7首。そして最後に、雑歌が32首収められています。これらの歌を合計すると、全体で78首という構成になります。

ただし、現在に伝わる『金玉和歌集』の写本には、この78首本が主流である一方、収録されている歌数が異なる異本も存在することが知られています。具体的には、69首を収めたものや、76首を収めたものなどが確認されています。

収録されている歌を歌人別に見ると、紀貫之（きのつらゆき）の歌が最も多く、8首が採用されています。紀貫之は『古今和歌集』の撰者の一人であり、平安時代の歌壇において中心的な存在でした。その次に、凡河内躬恒（おおしこうちのみつね）や伊勢（いせ）といった、同じく『古今和歌集』にも歌を収めている著名な歌人たちの歌が続いています。

このように『金玉和歌集』は、藤原公任という当時の第一級の歌人が、古今を通じて優れた歌を選りすぐって編んだ私撰集であり、平安時代中期の歌壇における歌の評価や流行を知る上で貴重な資料の一つと言えます。特に、公任自身が「黄金の玉」と称するほど、その内容に自信を持っていたことがうかがえ、当時の歌の価値観を反映していると考えられます。

もう一度検索