凡河内躬恒

凡河内躬恒：平安時代の歌人と官人

凡河内躬恒（おおしこうちのみつね）は、平安時代前期を代表する歌人であり、官僚としての人生も歩んだ人物です。正確な生没年は不明ですが、貞観元年（859年）頃生まれ、延長3年（925年）頃没したと推定されています。凡河内氏は、凡河内国造の後裔を称する氏族であり、躬恒自身も地方官を歴任しました。

彼のキャリアは、地方官としての着実な昇進を示しています。寛平6年（894年）には甲斐権少目、延喜7年（907年）には丹波権大目、延喜11年（911年）には和泉権掾、そして延喜21年（921年）には淡路権掾と、着実に地位を上げていきました。最終的には和泉大掾に任ぜられたと推測されています。宇多天皇から醍醐天皇にかけての時代、地方行政に携わりながら、宮廷歌人としての活動も精力的に行っていました。

歌人としての活躍は多岐に渡ります。数々の歌合に参加し、才能を競い合っただけでなく、賀歌や屏風歌といった宮廷儀式の歌にも携わっていました。特に有名なのは、昌泰元年（898年）の朱雀院女郎花合への出詠から始まり、延喜7年（907年）の宇多法皇の大堰川行幸、延喜16年（916年）の石山寺御幸、延喜21年（921年）の春日社参詣など、重要な宮廷行事にも供奉し、和歌を詠進しました。

躬恒は『古今[[和歌集]]』の撰者としても知られています。延喜5年（905年）、紀貫之、紀友則、壬生忠岑らと共に、この日本最古の勅撰[[和歌集]]の編纂に携わったのです。このことは、当時における彼の高い和歌の造詣と、宮廷内における彼の地位の高さを示すものと言えるでしょう。彼の才能は広く認められており、『古今[[和歌集]]』をはじめとする勅撰[[和歌集]]に194首もの歌が採録されています。これは、彼の優れた才能と宮廷歌人としての名声を物語る大きな業績です。また、彼の歌を集めた私家集『躬恒集』も存在したと伝えられています。

三十六歌仙の一人にも数えられ、その名声は現在まで続いています。代表作として、広く知られているのは『小倉百人一首』にも収録されている以下の歌です。

「心あてに 折らばや折らむ 初霜の おきまどはせる 白菊の花」

この歌は、恋心を白菊に託した、繊細で美しい表現が特徴です。他にも、醍醐天皇に月のことを問われた際、即興で詠んだとされる以下の歌も有名です。

「てる月を 弓張とのみ いふことは 山の端さして いればなりけり」

これらの歌からも、彼の豊かな感性と、和歌に対する深い造詣がうかがえます。

躬恒の才能は、同時代の歌人からも高く評価されていました。『無名抄』には、源俊頼が紀貫之と躬恒の優劣を問われた際に、「躬恒をばかにしてはいけません」と答えたという逸話が記されています。これは、躬恒の和歌の技量と、歌人としての地位が、当時どれほど高く評価されていたかを物語っています。

また、広峯神社の祠官家である広峯氏は、躬恒の末裔を称していたと伝えられており、彼の影響が後世にまで及んだことを示しています。凡河内躬恒は、地方官としての職務と、宮廷歌人としての活動を両立させ、平安時代の文化に大きく貢献した人物として、歴史に名を残しています。彼の歌は、現代においても人々の心を捉え続け、平安時代の情感を伝えています。

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