金聖愛

金聖愛（キム・ソンエ）とは

金聖愛（キム・ソンエ、김성애、1924年12月29日 - 2014年）は、北朝鮮の初代最高指導者である金日成（キム・イルソン）の後妻として知られる人物です。彼女の生涯は、北朝鮮の政治史と密接に結びつき、その動向は常に注目されてきました。2014年頃に死去したとされていますが、詳細は不明な点が多く残されています。

生い立ちと金日成との出会い

金聖愛は、日本統治時代の朝鮮半島、平安南道で農家の長女として生まれました。当初の名前は「金聖八（キム・ソンパル）」であったと伝えられています。北朝鮮建国後、朝鮮戦争の直前に朝鮮人民軍に入隊し、金日成の執務室で書記として勤務しました。当時、執務室では日成の警護を担当する安全部に所属し、副部長のタイピストを務めていたとされています。軍の階級は特務大尉でした。この頃から金日成の愛人となり、同居を開始。金日成との間に子供を身ごもったとも言われています。朝鮮戦争中、金聖愛は故郷に戻り、金日成は生活費を仕送りしていました。戦後、彼女は平壌に呼び戻され、金日成の後妻として、先妻金正淑（キム・ジョンスク）の子である金正日（キム・ジョンイル）や金敬姫（キム・ギョンヒ）と共に暮らしました。

金日成の妻として

金聖愛は、金正日や金敬姫に対し、実の親のように振る舞ったと言われています。1954年には金日成との間に金平一（キム・ピョンイル）を産み、公式に金日成の夫人となりました。その後、金英一（キム・ヨンイル）、金慶真（キム・ギョンジン）、金清一（キム・チョンイル）と、合わせて三男一女をもうけました。

権力闘争と失脚

1969年、金聖愛は朝鮮労働党中央女性同盟委員長に就任し、権力中枢に進出しました。1970年には朝鮮労働党中央委員に選出、1971年には朝鮮民主女性同盟委員長となり、組織を拡大しました。しかし、1970年代に入ると、自らの子供を後継者にするため、金正日と対立するようになります。また、金日成の弟である金英柱（キム・ヨンジュ）とも後継者問題を巡って対立しました。金聖愛が率いる朝鮮労働党中央女性同盟による越権行為や不正が明らかになったことから、1973年、金聖愛は公式の場から姿を消し、慈江道江界市の別荘に送られ、失脚しました。追随者たちも農村や鉱山に追放されました。1974年、金正日が金日成の後継者として「推戴」されると、公文書から金聖愛の名前が削除され、「夫人」の二文字のみが残されるようになりました。

突然の再登場とその後

1994年、金聖愛は突如公式の場に姿を現し、海外メディアを驚かせました。当時、北朝鮮の核問題を巡り、アメリカが元大統領ジミー・カーターを特使として派遣した際、金日成との会談に同席したのです。この時、金聖愛は「朝鮮労働党中央女性同盟委員長」として紹介され、カーターと握手を交わしました。会談前には、秘書のように金日成に付き従い、妻として世話を焼く様子を見せたと言われています。このことから、失脚後も金日成と私生活を共にし、「金日成夫人」としての立場を維持していたと見られています。

しかし、1994年7月に金日成が死去すると、金聖愛は再び姿を消しました。金日成の葬儀にも参列せず、その後、公式の場に現れることはありませんでした。

晩年と死去

金正日政権下では、金聖愛の存在を示す過去の記録は全て抹消されました。平壌から地方の専用施設に移送され、脱北者団体などの情報によると、2014年頃に慈江道江界市で死去したとされていますが、北朝鮮当局からの公式発表はありませんでした。2018年になって、韓国の情報機関が金聖愛の死去を認定し、以降、韓国政府の文書では死亡者として扱われるようになりました。しかし、具体的な死亡年月日や死因については、現在も不明な点が多く残されています。

子供たちの動向

金聖愛の子供たちも、その後の動向が判然としない点が多く、いずれも北朝鮮の在外公館の役職を命じられ、事実上、権力中枢から遠ざけられていました。長男の金平一は、金正日やその三男である金正恩（キム・ジョンウン）から疎まれ、海外に追われましたが、2020年まで駐フィンランド大使、駐ポーランド大使、駐チェコ大使などを歴任しました。次男の金英一は、2000年頃にドイツの北朝鮮大使館在職中に病没したと伝えられています。娘の金慶真は、元オーストリア大使の妻として長らくオーストリアに滞在していましたが、2020年に帰国したとみられています。

まとめ

金聖愛は、金日成の妻として、一時は権力の中枢に近づきましたが、権力闘争に巻き込まれ、その後の人生は謎に包まれています。その生涯は、北朝鮮の政治史における重要な一側面を映し出しており、今後もその動向が注目されることでしょう。

もう一度検索