金蝉脱殻

金蝉脱殻（きんせんだっかく）

金蝉脱殻は、兵法三十六計の第二十一計にあたる計略で、「きんせんだっかく」と読み下します。この計は、敵軍が非常に強大で、正面からの抵抗が困難な状況において、一時的に撤退し、態勢を立て直すことを目的としています。

計略の内容

敵が強大で、抵抗すれば損害が拡大する状況下で、安易な撤退は敵の追撃を招く危険性があります。金蝉脱殻の計は、このような状況で安全に撤退するための策として用いられます。その名前の由来は、蝉が抜け殻を残して飛び去る様子から来ています。つまり、あたかも現在地に留まっているかのように敵を欺き、その隙に主力を安全に撤退させるのです。

この計略は、単に撤退する場合だけでなく、戦略的な目的で主力を移動させたい場合にも応用できます。敵の目を欺き、戦力を温存・再配置することで、より有利な状況を作り出すことが可能になります。

事例

滎陽の戦い

劉邦が項羽軍に滎陽で包囲され、脱出も打開も困難となり、食糧も尽きかけるという絶望的な状況に陥りました。ここで、陳平が策を献じます。将軍の紀信に劉邦の身代わりをさせ、鎧兜を身につけさせ、兵士に扮した婦女子とともに降伏を装うのです。

楚軍は、まず軍勢が城から出てきたため攻撃を仕掛けましたが、その中身が婦人であったため攻撃を止めました。続いて、立派な身なりの人物が悠然と現れたため、降伏であると判断し、長きにわたる戦いが終わり、ようやく故郷に帰れると歓喜の声を上げました。他の方面を包囲していた楚軍も、騒ぎを聞きつけ、そちらへ集まりました。その隙に、劉邦は反対側の門から脱出し、本拠地まで戻り、態勢を立て直すことに成功しました。

しかし、紀信は劉邦に扮したことを激怒した項羽によって火刑に処されるという悲劇的な結末を迎えました。

宋軍の撤退

北宋軍が優勢な金軍の襲撃に耐えきれず、陣地を放棄する際にも、金蝉脱殻の計が用いられました。宋軍は、旗印を陣地に残したまま撤退し、さらに縄で吊り下げた羊の前足に太鼓を取り付け、音が鳴るように仕掛けました。これにより、金軍にはまだ陣地を守っているように見せかけ、安全な撤退を成功させたのです。

まとめ

金蝉脱殻の計は、撤退戦において非常に有効な手段となりえます。しかし、その成功は、敵を欺くための周到な準備と、実行者の犠牲的精神にかかっていると言えるでしょう。現代においても、ビジネスや人間関係など、様々な状況で応用できる示唆に富んだ計略です。

関連項目

兵法三十六計
滎陽の戦い

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