鈴木伝五郎

鈴木 伝五郎（すずき でんごろう）は、安政4年（1857年）に生まれ、明治43年（1910年）に没した、明治時代の実業家であり政治家です。特に、多額納税者として貴族院議員を務めたことで知られています。本名は義和（よしかず）といい、子幹（しかん）という字（あざな）も持ちましたが、通称である伝五郎の名で広く知られました。「東洋」や「白雲洞」といった号も使用しています。

伝五郎は、讃岐国香川郡高松城下の南新町（現在の香川県高松市南新町）に生まれました。生家は、当時「伏石屋」と呼ばれた豪商、鈴木義方の息子として、恵まれた環境で育ちました。実業の世界に身を置く傍ら、絵師である中山愛山（なかやま あいざん）に師事し、墨竹画（ぼくちくが）を学ぶなど、文化的な教養も深めていました。

明治維新後の社会変革期において、伝五郎は自由民権運動に深く関わっていきます。明治8年（1875年）、十河権三郎（そごう ごんざぶろう）、川崎舎竹郎（かわさきや たけろう）、富山甚三郎（とみやま じんざぶろう）、中野滝次郎（なかの たきじろう）、佐々木清三（ささき せいぞう）といった同志たちと共に「博文社（はくぶんしゃ）」を設立しました。高松市内の兵庫町に新聞縦覧所（しんぶんじゅうらんじょ）を設け、人々に新聞を読ませることで啓蒙活動を行い、自由民権思想の普及に努めました。さらに明治10年（1877年）には「高松立志社（たかまつ りっししゃ）」を組織し、各地で積極的に演説会を開催しました。この活動を通して、自由民権運動の指導者であった板垣退助（いたがき たいすけ）とも親交を深めました。

言論の力を重視していた伝五郎は、新聞の発行にも乗り出します。明治14年（1881年）8月、香川県において初めてとなる新聞として『腰抜新聞（こしぬけしんぶん）』を創刊しました。しかし、新聞発行は困難を伴い、残念ながら一年ほどで廃刊となってしまいます。

実業家として成功を収める一方で、伝五郎は地域の公職も歴任しました。愛媛県（当時、香川県の一部を含む広範な地域）の勧業諮問会員（かんぎょうしもんかいいん）として産業の振興について助言を行ったり、同県の山田郡（やまだぐん）と香川郡（かがわぐん）における所得調査委員を務めたりしました。また、郷土である高松市の市会議員としても市政に貢献しました。

その財力と地方政界での実績が認められ、明治23年（1890年）9月29日には、多額の国税を納める者から選ばれる貴族院多額納税者議員に就任しました。国政の場において、讃岐国の代表として約7年間にわたり活動し、明治30年（1897年）9月28日の任期満了までの一期を務め上げました。

鈴木伝五郎の家系は、その後も高松の地で重要な役割を果たします。養子の鈴木幾次郎（すずき いくじろう）は後に高松市長を務め、さらに幾次郎の長男である孫の鈴木義伸（すずき よしのぶ）もまた高松市長となるなど、三代にわたって高松市政に関わり、地域社会の発展に寄与しました。

このように、鈴木伝五郎は明治という新しい時代において、実業家としての才覚を発揮しつつ、自由民権運動に積極的に参加して言論活動を展開し、さらに地方から中央の政治へと進出した、多方面で活躍した郷土の偉人と言えるでしょう。彼の生涯は、参考文献として『日本人名大辞典』、『議会制度百年史 - 貴族院・参議院議員名鑑』、『香川県大百科事典』、『郷土歴史人物事典 香川』などに記されています。

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