鈴木志郎康

鈴木志郎康

鈴木 志郎康（すずき しろうやす、本名：鈴木 康之）は、1935年5月19日に東京市江東区亀戸で生まれ、2022年9月8日にその生涯を閉じた、日本の現代詩および映像表現において独自の足跡を残した詩人、映像作家です。

経歴と活動の変遷

1950年代初頭より詩作を開始し、日本大学第一高等学校を経て、1961年3月には早稲田大学第一文学部仏文専修を卒業しました。大学在学中の1959年には、高野民雄らと共に文芸雑誌「青鰐」を創刊し、詩作への初期的な取り組みが見られます。卒業後、1961年から1977年までの長きにわたり、NHKにて16ミリ映画のカメラマンとして勤務し、映像の世界に深く関わることとなります。

1963年頃からは、ジョナス・メカスの影響を強く受けながら、自身の視点による個人映画の制作を開始します。日常や内面を日記のように綴るその映像スタイルは、後の日本の実験映像界に影響を与えることになります。同年、詩集『新生都市』を上梓し、詩人としても注目を浴び始めました。

1964年には、天沢退二郎、渡辺武信、菅谷規矩雄らとともに、同人雑誌「凶区」を創刊しました。「凶区」は一時期、金井美恵子も参加するなど活発な活動を展開しましたが、1971年に廃刊。鈴木は廃刊以前に脱退しています。

詩的な革新と多様な表現

鈴木志郎康の詩は、特に初期において既成の詩的規範を打ち破る革新性を持っていました。1968年にH氏賞を受賞した第二詩集『罐製同棲又は陥穽への逃走』では、いわゆる「プアプア詩」と呼ばれるスタイルが登場。破壊的な口語体、エログロ描写、ナンセンスな言葉遣いを駆使し、読者に強い衝撃を与えました。「極私的」という言葉は、この頃の鈴木の造語とされ、自身の内面や日常を徹底的に掘り下げる彼の姿勢を象徴しています。この時期の詩風は、当時の現代詩壇に大きな影響を与えました。

しかし、その詩的な探求は一つのスタイルに留まりませんでした。1974年発表の詩集『やわらかい闇の夢』では一転して、平易で穏やかな言葉遣いで都市生活の中の個人のあり方を描出し、再び読者を驚かせました。その後も、鈴木は詩作を続け、2002年には詩集『胡桃ポインタ』で高見順賞を、2008年には『声の生地』で萩原朔太郎賞を、2014年には『ペチャブル詩人』で丸山豊記念現代詩賞を受賞するなど、晩年まで高い評価を受け続けました。

映像と評論活動

詩作と並行して、鈴木志郎康は映像作家としても精力的に活動しました。NHK退職後も個人映画制作を続け、『日没の印象』、『草の影を刈る』、『風の積分』など、日記的手法や特定の視点を固定した記録など、多様な実験的アプローチによる作品を多数発表しています。1999年には横浜美術館で映像個展が開催され、それまでに制作された多くの作品がまとめて上映される機会がありました。

また、映画評論家としても知られ、『映画の弁証 性と欲望のイメージ』、『映画素志 自主ドキュメンタリー映画私見』などの評論集を著し、映像表現に対する深い洞察を示しました。

教育者として

鈴木志郎康は後進の育成にも力を注ぎました。1970年代から東京造形大学やイメージフォーラム付属映像研究所で、その後、早稲田大学や多摩美術大学で教鞭を執り、詩や映像の世界を目指す多くの若者に影響を与えました。特に多摩美術大学では長年教授を務め、自身の表現活動と教育活動の両輪で日本の芸術界に貢献しました。

詩人、映像作家、評論家、そして教育者として、常に既成の枠にとらわれず、自身の「極私的」な視点から世界の多様な側面を深く掘り下げ続けた鈴木志郎康は、日本の現代詩と映像表現の歴史において、他に類を見ない独自の存在感を放ち続けています。

主な著書

『新生都市』（1963年）
『罐製同棲又は陥穽への逃走』（1967年）
『やわらかい闇の夢』（1974年）
『極私的現代詩入門』（1975年）
『映画の弁証 性と欲望のイメージ』（1982年）
『胡桃ポインタ』（2001年）
『声の生地』（2008年）
『ペチャブル詩人』（2013年）

主要映像作品

『EKO Series』（1963年）
『日没の印象』（1975年）
『草の影を刈る』（1977年）
『15日間』（1980年）
『比呂美－毛を抜く話』（1981年）
『風の積分』（1989年）
『内面のお話』（1999年）
『極私的に遂に古稀』（2005年）

もう一度検索