鈴木直

鈴木 直（すずき ただし）

日本の古生物学者。1951年6月25日、福島県いわき市内郷に生まれる。いわき市アンモナイトセンターの元主任研究員であり、何よりも日本を代表する首長竜であるフタバスズキリュウの発見者として広くその名を知られている。

幼少期から化石への情熱

鈴木氏は幼い頃から化石に強い関心を抱き、故郷であるいわき市の地層で化石探しを始めた。中学二年生の時、地元阿武隈山地の地質史に関する書籍、柳澤一郎著『阿武隈山地東縁のおい立ち』に出会ったことが、その後の探求を深めるきっかけとなる。特に、伯母が住んでいた大久町入間沢の大久川付近の地層、双葉層群に興味を持ち、集中的に探査を始めた。この双葉層群からは、かつて昭和初期に徳永重康・清水三郎両博士によって、不完全ながらも首長竜のものと思しき脊椎骨が発見・報告されていたが、断定には至っていなかった。

フタバスズキリュウの大発見

運命的な発見が訪れたのは、福島県立平工業高校二年生だった1968年10月のことである。学校の長期休暇を利用し、以前から探査を続けていた大久川の河岸に露出していた双葉層群玉山層で化石を発見した。当初見つかったのはサメの歯であったが、付近をさらに掘り進めるうち、ついに首長竜の脊椎骨を発見するに至る。

この発見の報を受けた国立科学博物館の小畠郁生、長谷川善和両博士が発掘調査に加わり、本格的な発掘が開始された。発見された化石は、体長約6.5メートルに及ぶほぼ完全な一頭分に加え、子供を含む少なくとも六頭分の部分的な骨格にのぼった。環太平洋岸のアジア地域において、これほど保存状態が良く、まとまった首長竜の全身骨格が発見されたのは、これが初めての快挙であり、古生物学界に大きな衝撃を与えた。しかし、発掘と全体のクリーニング、復元作業には、当時の国立科学博物館の予算や体制の都合もあり、約四年という歳月を要した。

命名までの長い道のりとその後

発見された首長竜の分類学的研究や他種との比較には、さらに長い年月が費やされた。そして、発見から実に三十八年の時を経た2006年（平成18年）、この首長竜は発見された双葉層群と発見者である鈴木直氏の名にちなみ、『フタバサウルス・スズキイ（Futabasaurus suzukii） Sato, Hasegawa & Manabe, 2006』と学名が与えられ、晴れて新属新種として正式に学会に記載された。

フタバスズキリュウの発見後も、鈴木氏は地元のいわき市において、市石炭・化石館や市教育文化事業団などの職員を務め、長く化石に関わる業務に従事した。特にいわき市アンモナイトセンターでは主任研究員として、地域の地質や化石の発掘、調査、復元作業に貢献。その傍ら、幼少期から関心を寄せていたサメ、とりわけその歯の化石の研究をライフワークとして継続している。

クジラ化石の新種発表

また、鈴木氏のもう一つの重要な業績として、クジラ類の化石の研究が挙げられる。1995年にいわき市中央台高久で道路建設工事中に発見されたクジラ類の化石について、鈴木氏は2003年にこれを『ナカヤマコウヨウクジラ』と名付けた。その後、木村敏之氏や長谷川善和氏ら他の研究者と共に詳細な調査と研究を重ねた結果、2022年11月には、この「ナカヤマコウヨウクジラ」がこれまでに知られていなかった全く新しい種類のクジラであったことを正式に発表している。

鈴木直氏は、高校時代の類まれな発見を契機に、その後も長年にわたり古生物学、特に地元いわき市の古生物研究の第一線で活躍し、地域の地質遺産の保全と研究、そして新たな発見に貢献し続けている。

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