鈴木菊次郎

鈴木菊次郎

鈴木菊次郎（1868年9月30日 - 1935年2月6日）は、愛知県田原市出身の実業家です。彼は、伝統的な大工の棟梁から、革新的な飴製造業者へと転身し、その生涯を菓子製造と地域経済の発展に捧げました。

生い立ちと家業

1868年、菊次郎は三河国渥美郡田原村（現在の愛知県田原市）で、大工の幸左衛門の長男として生まれました。父は職人でありながら、茶道、華道、短歌にも通じる教養人でした。菊次郎は成人後、父の跡を継いで大工の棟梁として活躍していましたが、30歳頃、同郡赤羽根村の宮田たねと結婚しました。妻のたねは、小物問屋を営み、飴細工を製造販売していました。

飴製造への転身

この地では、農家が副業として麦芽糖を精製し、飴を製造販売するのが一般的でした。1900年、菊次郎は伊勢神宮参詣の折に見た機械に着想を得て、独自の晒飴製造機を発明しました。当初の原料はうるち米でしたが、米価高騰により、1902年にはシャム産の砕米を使用する製造法を開発しました。

1905年、菊次郎は田原町に工場を建設し、「黄金飴」の大量生産を開始しました。しかし、1908年には製造設備の権利を譲渡し、自身は晒飴の加工品である固形飴「翁飴」の製造販売を始めました。「翁飴」は、北海道産の寒天に砂糖と水飴を混ぜて煮詰め、色素と香料を加えて型に流し込み、乾燥させて作られました。この型は、父の幸左衛門が作ったものです。この「翁飴」は、名古屋では前野太吉商店・河合商店、東京では玉越吉松商店がそれぞれ特約店として販売しました。

ゼリーの開発とオブラートの利用

1914年、菊次郎は新商品として「サイダボンボン」を開発しました。これは現在のゼリーにあたるもので、当初はサイダーなどの清涼飲料水を混ぜ込んだ柔らかい飴でした。この柔らかさを保つために、オブラートの開発も行いました。このオブラートは、菊次郎が飯炊き釜に残った吹きこぼれの乾燥したものを見て着想を得たといわれています。既に存在したゼリー状の菓子をオブラートで包むことは、菊次郎の独創的な発明でした。

1920年、菊次郎はゼリーの販売について、赤羽根村の杉原定吉（後の杉本屋製菓）と特約店契約を結びました。さらに、田原では松井登（松井製菓）、名古屋では渡辺製菓が特約店として販売しました。菊次郎は「特約店の面倒は一生見届ける」という信念を持ち、特約店も菊次郎に深い信頼を寄せていました。

オブラートの特許譲渡

1917年、菊次郎はオブラートの特許権を東京山元オブラート株式会社に譲渡しました。このオブラートは、製菓用だけでなく医療用としても広く利用されるようになりました。

その後

1932年、菊次郎は「翁飴」とゼリーの製造機械を渡辺製菓や自社の職長に譲り、自身はミカン畑を営むようになりました。
1935年2月6日、東京の病院で亡くなり、遺骨は田原町の龍泉寺に葬られました。

外部リンク

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参考文献

田原町文化財保護審議会・田原町史編さん委員会 編「鈴木菊次郎」『田原町史 下巻』田原町・田原町教育委員会、1978年5月31日、910-915頁。

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