鉄人28号 皇帝の紋章

鉄人28号 皇帝の紋章

『鉄人28号 皇帝の紋章』は、SF漫画家として知られる長谷川裕一氏が、横山光輝氏による不朽の名作『鉄人28号』を原作として手掛けたリメイク漫画作品です。講談社の漫画雑誌『月刊マガジンZ』にて2004年1月号から2005年1月号まで連載され、単行本は全3巻が刊行されました。

作品概要

本作の最も特徴的な設定は、「昭和30年代に巨大ロボット兵器が実在したが、その後、歴史の表舞台から姿を消したため、その存在が疑問視されている」という独自の歴史観にあります。この設定を軸に、SF的な整合性を重視する長谷川氏ならではの視点から、鉄人28号の世界が再構築されています。物語は、原作と同様に巨大ロボットによる迫力ある戦闘を描きつつも、なぜロボット兵器が歴史から失われたのか、その背景にある謎や経緯にも深く切り込んでいます。単行本巻末には、作中の独自設定に基づき、現代の研究者による論文という体裁で、鉄人に関する架空の考証が掲載されており、作品世界に一層のリアリティを与えています。ちなみに、この論文に名前だけ登場する「松井一郎」は、本作の続編として構想された現代編の主人公となる予定だった人物ですが、残念ながら現代編は実現しませんでした。

ストーリー

物語の舞台は、独自の歴史を歩んだ昭和30年代初頭の日本。主人公は、有楽町近郊で探偵業を営む若き天才、金田正太郎です。彼は、父・金田博士が開発した巨大ロボット兵器「鉄人28号」の操縦者として、街の平和を守る活動をしていました。ある日、正太郎のもとにアリス・ドラグネットと名乗るポーランド出身の少女が現れます。時を同じくして、日本各地に謎の巨大ロボットが出現し始めます。これは、第二次世界大戦末期にナチス・ドイツが日本に密かに運び込んだとされる「ナチスの秘宝」とその鍵となる7つの「皇帝の紋章」を巡る国際的な争奪戦の始まりでした。各国のロボット研究者に送られた紋章を集め、ロボット同士の戦いによって全てを揃えれば、秘宝の隠し場所が明らかになるというのです。正太郎は、秘宝そのものの獲得には興味を示さず、それよりもロボット戦闘によって引き起こされる甚大な被害を食い止めるため、鉄人28号と共にこの戦乱に身を投じることになります。

登場キャラクター

本作では、原作のキャラクターを基にしつつも、独自の解釈や設定が加えられています。ここに挙げるのは、本作における彼らの特徴です。

人物

金田正太郎: 本作の主人公である少年探偵。持ち前の柔軟な発想力と、天性の操縦センスで鉄人を巧みに操ります。その能力を認められ、鉄人の所有者としての立場を許されています。
アリス・ドラグネット: 本作のヒロインを務めるオリジナルキャラクター。ポーランドの戦災孤児で、ロボット工学者ドラグネット博士の養女です。養父の死後、紋章争奪戦に巻き込まれ、正太郎を頼って訪れます。
敷島博士: 鉄人28号の整備を担当する科学者。金田博士の元助手であり、その理論に基づき鉄人を完成させた人物です。作中では、彼の発言の中に、メタフィクション的なジョークが含まれる場面があります。
大塚署長: 正太郎の後見人であり、地元の警察署長です。正太郎の父である金田博士とは生前親交があったようです。
村雨健次: 正太郎の資質を高く評価し、彼を影から支えるギャング。第二次大戦中は陸軍情報部に所属しており、当時のコネクションを活かして独自の情報収集を行います。正太郎の真っ直ぐな性格の危うさも見抜いており、必要に応じて汚れ仕事も引き受けます。
ネルケ: 今なおアドルフ・ヒトラーを深く崇拝する、ナチスの女闘士。ドイツ代表として紋章争奪戦に参加します。正太郎とは敵対する立場ですが、戦いを通じて彼に惹かれていく様子が描かれ、村雨からは「ショタコン」と揶揄されます。
フランケン博士: ドイツからアメリカへ亡命した天才ロボット工学者。誘導兵器の発展が人類を滅ぼすことを危惧し、代理戦争としてのロボット兵器の可能性を提唱します。自ら開発した巨大ロボット「ブラックオックス」を操り、争奪戦に加わります。物語の中で正太郎と激しく対立しますが、最期には正太郎の言葉に一抹の希望を感じるような描写があります。原作の不乱拳博士がモデルです。
ケリー・ドラグネット: アリスの実兄。養父であるドラグネット博士によって、ロボット兵器「ギルバート」を制御するためのサイボーグへと改造されました。故郷を戦争で失った経験から復讐心に囚われ、自ら望んで改造を受け入れました。

ロボット

本作に登場する主なロボット兵器を紹介します。一部は原作にも登場する機体ですが、本作独自の背景設定が付与されています。

鉄人28号: 金田正太郎が操縦する日本の巨大ロボット兵器。物語の中心となります。
ブラックオックス: フランケン博士が開発し、自ら操縦するアメリカ代表のロボット兵器。鉄人28号の強力なライバルとして立ち塞がります。
酒の神（バッカス）号: ドイツ代表であるネルケが操縦するロボット。
土星（サターン）号: イギリス代表が操縦するロボット。
怪物（モンスター）号: イタリア代表の十字結社が操縦するロボット。
炎（ファイヤ）II世（フランム・ドゥゼーム）: フランス代表のグラン･フランム教授（原作のビッグファイア博士がモデル）が操縦するロボット。
ギャロン: ソ連代表が操縦するロボット。原作のスリル・サスペンスに相当します。
ギルバート: ドラグネット博士によって開発されたポーランド代表のロボット。一度は未完成と思われていましたが、ケリーによって制御されます。
ロビー: 作中に登場するその他のロボットの一体。
溶鉱炉（シュメルツ・オーフェン）: 本作オリジナルの超大型ロボット兵器。「最後のロボット戦争」に勝利することを目的に製造され、50メガトン級の核爆弾搭載能力に加え、体内に蓄えた超高温の溶岩を武器とします。

本作は、原作へのリスペクトを保ちつつも、説得力のある独自設定とSF考証によって、『鉄人28号』の世界に新たな魅力を吹き込んだ作品と言えるでしょう。

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