鉄剣・鉄刀銘文

鉄剣・鉄刀銘文とは

鉄剣・鉄刀銘文とは、鉄製の剣や刀に刻まれた文字資料のことです。これらの銘文は、古墳時代を中心とした古代日本の歴史を研究する上で、非常に重要な役割を果たしています。特に、銘文が刻まれた鉄剣は「在銘鉄剣」と呼ばれ、当時の政治状況や文化、技術水準を知るための貴重な手がかりとなります。

本稿では、日本の古墳から出土した在銘鉄剣と、石上神宮に伝わる七支刀、四天王寺に伝わる丙子椒林剣について詳しく解説します。なお、ここでいう「剣」は両刃の武器、「刀」は片刃の武器を指します。

主な在銘鉄剣・鉄刀

東大寺山古墳出土「中平」銘大刀

1962年、奈良県天理市の東大寺山古墳から出土した鉄刀です。全長110cmで、金象嵌が施されています。

銘文は以下の通りです。


中平□□　五月丙午　造作支刀　百練清剛　上応星宿　□□□□


「中平」という年号や、刀の製造に関する記述が見られます。

石上神宮伝世 七支刀

石上神宮に伝わる七支刀は、百済から献上されたと伝えられています。特徴的な形状は、中央の鉾状の身から左右に3本ずつの枝刃が出ている点です。

金象嵌で61文字の銘文が刻まれており、古代東アジアの国際関係を研究する上で重要な資料です。

稲荷台1号墳出土「王賜」銘鉄剣

千葉県市原市の稲荷台1号墳から出土した鉄剣です。銀象嵌で表面に「王賜□□敬□（安）」、裏面に「此廷□□□□」と刻まれています。

銘文の内容から、当時の王への奉仕と下賜の関係が伺えます。特に「王賜」の文字が他の文字よりも太く、文字間隔が大きいことや、裏面の文字よりも上位に配置されていることは、貴人に敬意を表す書法（擡頭法）によるものと考えられています。

江田船山古墳出土 銀錯銘大刀

熊本県和水町の江田船山古墳から出土した大刀です。銀象嵌で約75文字の銘文が刻まれていましたが、研磨によって一部が失われています。

稲荷山古墳出土 金錯銘鉄剣

埼玉県行田市の稲荷山古墳から出土した鉄剣で、115文字の金象嵌銘文が刻まれています。表裏にタガネで文字を刻み、そこに金線を埋め込むという高度な技術が用いられています。

元岡G-6号墳出土 金錯銘大刀（庚寅銘大刀）

福岡県福岡市の元岡古墳群から出土した金象嵌銘のある大刀です。刀身に「大歳庚寅正月六日庚寅日時作刀凡十二果□」と19文字の銘文が刻まれており、制作年が西暦570年であることが分かります。

岡田山1号墳出土「額田部臣」銘大刀

島根県松江市の岡田山1号墳から出土した鉄刀です。銀象嵌の銘文の一部「各田卩臣□□□素□大利□」が残っており、「額田部臣」という氏族に関する古い史料として重要です。

熊本城跡出土「甲子年」銘文鉄刀

熊本県熊本市の熊本城跡から出土した鉄刀で、X線解析により「甲子年五□月カ□中カ」という銘文が確認されました。鉄刀の形態から、この「甲子年」は西暦604年である可能性が高いとされています。

箕谷2号墳出土「戊辰年」銘鉄刀

兵庫県養父市の箕谷2号墳から出土した鉄刀です。刀身に「戊辰年五月□」と銅象嵌で記されており、この刀が608年に作られたと推定されています。

四天王寺伝世 丙子椒林剣

四天王寺に伝わる直刀で、「丙子椒林」という銘文が刻まれています。「丙子」は制作年、「椒林」は作者を示すと解釈されています。

伝群馬県出土 金錯銘直刀身

群馬県立歴史博物館所蔵の直刀で、群馬県内の古墳から出土したと伝えられます。金象嵌の銘文がありますが、不明瞭で6-7字程度しか判読できません。刀身の形状から7世紀のものと考えられています。

鉄剣・鉄刀銘文の意義

これらの銘文は、単なる文字の記録としてだけでなく、当時の社会構造、政治状況、国際関係、技術水準を理解するための重要な手がかりとなります。例えば、銘文に見られる「王」という文字は、当時の支配者を指し、その権力構造を推測する上で重要な情報となります。また、象嵌の技術や刀剣の形態は、当時の技術水準や文化交流の様子を物語っています。

鉄剣・鉄刀銘文は、古代日本の歴史を解き明かす上で欠かせない貴重な史料であり、今後の研究によって新たな発見が期待されています。

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