鉄輪 (能)

能『鉄輪』の概要

能楽の演目の一つである『鉄輪（かなわ）』は、鬼女物に分類される作品で、平家物語の『剣巻』を元にしている。この演目は、嫉妬や恨みが生む怨念の怖さを生々しく描写しており、特に伝説的な丑の刻参りのイメージの原型とも言われる。物語は主に二つの部分に分かれており、前半では女の変化、後半では鬼女の復讐がテーマになっている。

登場人物

• - 前シテ: 鬼女の姿を持つ女
• - 後シテ: 鬼女そのもの
• - ワキ: 安倍晴明
• - ワキツレ: 復讐を受ける男
• - 間狂言: 貴船神社の社人

あらすじ

物語は、夜に貴船神社の社人による夢の告げから始まる。この夢は、丑の刻に不倫をしている都女がやってきて信託を受け取るというものである。さて、丑の刻にその女が現れる。彼女は、自分を捨てた夫に対する恨みを抱え、幾晩も参り続けていた。社人は女に、危険な儀式を行うように告げ、五徳（鉄輪）を頭にのせることで、彼女の望みが叶うかもしれないと伝えた。

女は一瞬自分の行動を否定するが、社人との対話の中で彼女の容姿が変わり、変貌する様を社人は恐れて逃げ出す。女の姿は爛れ、髪は逆立ち、空は雷鳴に包まれる。彼女は恨みを晴らす決意を抱き、去って行った。

中入

物語は中入を迎え、女の夫は毎晩の悪夢に悩まされ、陰陽師安倍晴明に相談に行く。晴明は、夫婦の命が今夜で終わると予測し、祈祷棚を設ける。夫の身代わりにしたものを載せ、祈りを始める。その時、火を灯した鉄輪を被った鬼女が現れ、夫婦に襲い掛かろうとするが、晴明の祈りによって時を待つように姿を消した。

装束と道具

この演目では、重要な装束や道具も多く登場する。

• - 前シテ: 鬘や鬘帯、唐織壺折が用いられ、頭には笠を戴く。所持品として扇を持っている。
• - 後シテ: 鬘や鬘帯、平元結を着用し、扇や打杖を所持。頭には鉄輪（五徳）を被る。
• - ワキ: 風折烏帽子や縷狩衣、そして扇や幣を持ち、背後に位置する。
• - ワキツレ: 素袍上下を着用し、無地熨斗目の小刀と扇を持つ。
• - 間狂言: 洞烏帽子や縷水衣など曖昧さが漂う装束。

面と作り物

演目では、様々な面が使用される。前シテでは恨みを持った女の面、後シテでは鬼女になりかけている女の面を用いて感情の変化を表現する。作り物としては、一畳台が基本となり、上に祈祷棚や身代わりの侍烏帽子、鬘が置かれる。

『鉄輪』は、感情の深さと物語の巧妙な展開により、日本の能楽の中でも特に人気のある演目であり、見る者に強烈な印象を与える。

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