錦沢駅

錦沢駅：炭鉱町の行楽地として賑わったスイッチバックの廃駅

北海道夕張市にかつて存在した夕張鉄道線の駅、それが錦沢駅（にしきざわえき）です。この駅は、夕張鉄道線の廃止に伴い、1975年（昭和50年）にその歴史に幕を閉じました。単なる停車駅ではなく、地域の行楽拠点であり、そして極めて珍しい構造を持つ駅として知られています。

開設から廃止までの歴史

錦沢駅の始まりは、1926年（大正15年）10月14日に開設された錦沢信号場に遡ります。当初、この地は「大蛇ノ澤（おろちのさわ）」と呼ばれていたことから、「大蛇ノ澤信号所」として計画されていましたが、建設中に名称が変更され、「錦沢」として開業しました。この名称変更の詳細は必ずしも明らかではありませんが、当時の記録には「二岐」から「新二岐」へ、そして「大ノ澤」から「錦沢」へと改称されたことが記されています。

信号場としての役割を経て、1927年（昭和2年）9月1日には一般営業を開始し、「錦沢駅」として旅客や貨物の取り扱いを始めました。

炭鉱で栄えた当時の夕張において、錦沢駅周辺は市民にとって貴重な行楽の場でした。駅の近くには、釣堀、小動物園、そして遊園施設などが整備され、多くの家族連れや若者で賑わいました。四季折々の風景も魅力の一つで、春には美しい桜が咲き誇り、秋には鮮やかな紅葉が山々を彩り、多くの観光客が訪れました。特別な日には花火大会も開催され、その際には夕張市内だけでなく、栗山や南幌といった周辺地域からも多数の臨時列車が運行されるほどの盛況ぶりでした。

しかし、時代の流れとともに炭鉱が閉山に向かうにつれて、地域の状況も変化していきました。旅客営業は1971年（昭和46年）11月15日に終了し、その後、夕張鉄道線自体の事業が1974年（昭和49年）4月1日付けで北海道炭礦汽船へ譲渡されました。そして、夕張鉄道線の廃線に伴い、1975年（昭和50年）4月1日、錦沢駅は廃駅となりました。

複雑で特異な駅構造

錦沢駅の最大の特徴は、その複雑かつ珍しい駅構造にありました。駅は相対式ホーム2面2線を持つ地上駅でしたが、特に地形的な制約が大きく影響していました。駅の前後区間は、最大20パーミル（1000m進む間に20mの高低差がある勾配）という急な坂が連続する山越え区間に位置していたため、列車はそのまま通過することができませんでした。

このため、錦沢駅は本格的な三段式スイッチバックという非常に特殊な構造を採用していました。列車は急勾配を登る（または下る）途中で進行方向を複数回変えながら駅に停車する必要があったのです。さらに特筆すべきは、駅施設自体が二段目のスイッチバックの途中、しかも勾配の途中（6.7パーミルの勾配上）に設置されていた点です。これはスイッチバック式の停車場としても非常に珍しい構造であり、鉄道技術史の上でも興味深い存在でした。

駅には終日駅員が配置され、安全な運行を支えていましたが、廃止間際にはポイント操作が自動化され、実質的に無人駅となっていた時期もありました。

廃止後の現在

駅が廃止された後、かつての賑わいは失われ、周辺にあった遊園地や寺院なども姿を消しました。夕張鉄道線の廃線跡の一部は、サイクリングロード「夕張鉄道線跡地自転車道」として整備されましたが、全ての区間が利用できるわけではありません。特に錦沢駅周辺を含む区間は、トンネルの老朽化などの影響により通行止めとなっており、現在は夕張市高松から平和駅跡付近までの区間のみが利用可能です。

そのため、現在の錦沢周辺を訪れる人は非常に少なく、かつての賑わいを偲ぶことができるものはほとんど残されていません。また、新二岐駅側の第三隧道付近の廃線跡の一部は、北海道道3号札幌夕張線の道路用地として転用されており、かつて鉄道が走っていた面影は薄れています。

このように、錦沢駅は炭鉱町の発展とともに生まれ、地域の行楽拠点として多くの人々に親しまれ、そしてその特殊な構造で鉄道ファンをも惹きつけましたが、時代の変化の中で静かにその役割を終えた駅と言えるでしょう。

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隣の駅（営業当時）
北海道炭礦汽船
夕張鉄道線：新二岐駅 - 錦沢駅 - 平和駅

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