錦絵新聞

錦絵新聞とは

錦絵新聞とは、明治初期に数年間だけ発行された、視覚的なニュースメディアです。浮世絵の一種である錦絵を用いて、新聞記事を絵で解説したもので、当時の大衆にとって重要な情報源でした。グラフィックとしての魅力から、「新聞錦絵」とも呼ばれることもあります。

歴史と特徴

明治初期の東京で創刊された新聞は、知識層向けで漢字が多く、一般大衆には読みにくいものでした。そこで、平仮名しか読めない大衆にも分かりやすいように、絵と平易な言葉でニュースを伝えたのが錦絵新聞です。

最初の錦絵新聞は、1874年（明治7年）に東京の版元「具足屋」が、東京日日新聞の記事を基に作成されました。落合芳幾の錦絵にふりがな付きの解説文を添え、錦絵版の「東京日日新聞」として売り出したところ、大変な人気を博しました。

この成功に続き、郵便報知新聞の記事に月岡芳年の錦絵を添えたものなど、各地の版元から約40種類もの錦絵新聞が発行されました。錦絵新聞は、その分かりやすさとゴシップ的な内容から、新聞に馴染みのなかった大衆に広く受け入れられました。しかし、錦絵よりも早く制作できる、挿絵入りの小新聞が登場すると、急速に姿を消していきました。

メディアとしての役割

錦絵新聞は、ニュースを視覚的に伝えるという点で、現代の写真週刊誌やテレビのワイドショーに通じるものがあります。振り仮名付きの解説文は、漢字を読めない人でもニュースを理解することを可能にし、「新聞」というメディアを大衆に身近なものにしました。また、東京土産としても人気を集めました。

しかし、速報性においては新聞に劣り、記事が発行されるまでに数日から数ヶ月の遅れが生じました。このため、より速報性の高い小新聞に押され、錦絵新聞は短い期間で衰退していきました。

浮世絵としての価値

錦絵新聞は、浮世絵の一形態として「新聞錦絵」とも呼ばれます。しかし、その芸術的評価は高くありませんでした。これは、題材が生々しい事件やゴシップが多かったことや、必ずしも美術的に評価の高い絵師が描いたものではなかったことが理由として挙げられます。しかし、当時の風俗や社会、大衆の関心を視覚的に知ることができる貴重な資料としての価値は高いと言えます。

題材

錦絵新聞では、次のような様々な題材が取り上げられました。

犯罪、刃傷沙汰、殺人事件
情痴事件、ゴシップ
珍談奇談、怪異譚
美談、孝行話、教育もの
異人もの、巡査もの
西南戦争

これらの題材は、当時の大衆がどのようなことに興味を持っていたのかを示すとともに、錦絵新聞が単なるニュースメディアとしてだけではなく、大衆娯楽としても重要な役割を果たしていたことを示しています。

錦絵新聞の主な例

東京の錦絵新聞

東京日日新聞
版元：具足屋
絵師：落合芳幾
特徴：赤い枠と天使の枠飾り
郵便報知新聞
版元：恵比寿屋錦曻堂
絵師：月岡芳年
特徴：紫の枠と赤い題号背景

大阪の錦絵新聞

大阪錦画新聞
大阪錦絵新聞
* 錦画百事新聞

まとめ

錦絵新聞は、明治初期の社会を映し出す鏡であり、当時のジャーナリズムと大衆文化を考える上で欠かせない存在です。短い期間で消え去ったメディアではありますが、その斬新な発想や大衆に寄り添う姿勢は、後世のメディアにも大きな影響を与えました。資料としての価値も高く、当時の人々の生活や関心を今に伝える貴重な存在と言えるでしょう。

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