錦絵

錦絵：江戸の粋を彩る木[[版画]]

錦絵は、江戸時代中期に確立した日本の木[[版画]]の一種です。版元、絵師、彫師、摺師という4者の高度な分業体制によって生み出され、その精緻な描写と鮮やかな色彩は、まさに錦織物のような美しさで人々を魅了しました。本稿では、一枚絵や連作を錦絵として扱い、版本は除外して解説します。

多色摺技術の革新と錦絵の誕生

明和2年（1765年）頃、裕福な俳諧人たちによる絵暦の交換会が流行しました。この会では、精巧な摺物の制作が盛んに行われ、技術革新が急速に進みました。当初は太陰[[暦]]に基づいた大小の月の判じ絵でしたが、次第に豪華絢爛な摺物が求められるようになり、版元は鈴木春信や礒田湖龍斎といった著名な絵師に制作を依頼しました。彫師や摺師も技術を向上させ、多色摺木[[版画]]は目覚ましい発展を遂げます。

明和3年（1766年）頃、絵暦交換会の流行は終息しましたが、版元はこれらの摺物を「東錦絵」または「吾妻錦絵」と名付けて販売を始めました。これは、従来の紅摺絵などの浮世絵と比べて、格段に美しいことから名付けられたものです。上質な奉書紙や胡粉を使った中間色を用いることで、より繊細で奥行きのある表現が可能となり、錦絵は全盛期を迎えました。良質な桜や朴の版木を使用するなど、素材にもこだわりが見られました。

春信から歌麿へ：美人画と役者絵の隆盛

明和7年（1770年）に鈴木春信が急死すると、北尾重政の写実的な美人画が大きな影響を与えました。役者絵では、勝川春章や一筆斎文調らが独自の画風を確立し、安永後期から天明時代には勝川派が中心となり、春章とその門弟たちが活躍しました。

寛政期には、喜多川歌麿が登場し、その優美な美人画は空前のブームを巻き起こしました。しかし、寛政2年（1790年）の改印制度により、浮世絵の内容は検閲されるようになり、出版には様々な制限が課せられました。歌麿に対抗するように、鳥文斎栄之が高雅な美人画を発表し、その門弟たちも活躍しました。役者絵では東洲斎写楽が登場し、写実的な大首絵が流行しました。写楽の画風は、歌川豊国や歌川国政らにも影響を与えました。

歌麿の死から幕末へ：多様な表現と新たな潮流

文化3年（1806年）の歌麿の死後も、菊川英山が歌麿風美人画で人気を得ました。文政時代には、歌川国貞や渓斎英泉の粋な美人画が好まれるようになり、歌川国芳は『水滸伝』を題材にした作品でブームを巻き起こすなど、多様な分野で活躍しました。葛飾北斎や歌川広重は、従来とは異なる風景画を発表し、新たな表現を開拓しました。安政6年（1859年）の横浜開港後は、横浜絵が人気を博しました。

明治期：文明開化と錦絵の衰退

明治時代に入ると、文明開化を反映した開化絵が描かれ、新聞錦絵も登場しましたが、数年で衰退しました。小林清親が発表した光線画は、他の画家にも影響を与えました。日清戦争や日露戦争を題材にした戦争絵も制作されましたが、絵葉書の普及などにより、錦絵は徐々に衰退していきました。職を失った彫師や摺師は、文芸書の挿絵や表紙絵などに活路を見出しました。

大正期：錦絵の終焉

大正時代には、山本昇雲、月岡耕漁、歌川国松、笠井鳳斎などが錦絵を制作しましたが、大正12年（1923年）の関東大震災による被害が大きく、多くの版元が廃業に追い込まれ、錦絵は歴史の幕を閉じました。

参考文献

吉田漱　『浮世絵の基礎知識』　雄山閣、1987年
稲垣進一編　『図説浮世絵入門』　河出書房新社、1990年
永田生慈 『資料による近代浮世絵事情』 三彩社、1992年
町田市立国際版画美術館編 『浮世絵モダーン 深水・五葉・巴水…伝統木[[版画]]の隆盛』 町田市立国際版画美術館、2005年
* 『大浮世絵展』企画委員会　『大浮世絵展』　読売新聞社、2014年

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