鍋島信太郎

鍋島信太郎

鍋島 信太郎（なべしま のぶたろう）は、1892年3月28日に生まれ、1973年8月22日に亡くなった日本の数学者および数学教育学者です。

人物と経歴

和歌山県橋本市の出身です。故郷で基礎教育を受けた後、和歌山県師範学校予備科を経て、東京高等師範学校に進学し、数学を学びました。卒業後、母校である東京高等師範学校の教授に就任し、教育者としての道を歩み始めます。その後、学制改革により東京教育大学が設立されると、引き続き教授として教鞭をとりました。長年にわたり高等師範学校および大学で多くの後進を育成し、日本の数学教育を牽引しました。1956年に定年退官した後も、数学教育への情熱は衰えず、日本数学教育学会の名誉会員としてその功績が称えられました。

業績

鍋島信太郎の学術的な貢献は、特に数学教育の分野で顕著です。教育現場における数学の指導法や、学習者が数学を理解するための教材研究に力を注ぎました。その研究成果は、数多くの単著、共編著、監修書として発表されています。

戦前から活発な執筆活動を行い、『新三角法初歩』、『数学教育の諸断面』、『数学教授法』など、数学の専門書から教育理論書まで幅広く手がけました。特に数学教育に関する著作は、当時の数学教育のあり方に一石を投じるものが多く、教育関係者から注目を集めました。例えば、『真実性に立つ算術新教育』や『算術教育』などは、算数教育における彼の哲学を示すものです。

戦後もその精力的な活動は続き、『数学教育の諸問題』、『数と数学』、『数学物語』といった著作を通じて、数学の面白さや教育の重要性を広く伝えました。また、新制学校制度への移行に伴い、新しいカリキュラムに対応した教材開発にも深く関与しました。『一般数学 新制準據』、『幾何 新制準據』など、教科書準拠の教材を執筆し、多くの生徒や教師に利用されました。

共編著や監修書も多数あり、同時代の著名な数学者や数学教育学者と共に、特定のテーマに焦点を当てた研究書や教材集を世に送り出しました。横地清との共著による『数理統計学初歩』や『数学教育』、野崎正雄との共著による『解析新研究』、『数学1新研究』シリーズ、時田幸男との共編による『算数科教材研究』、『中学校数学科教材研究』、『中等数学教育研究』、戸田清との共監修による『算数教材研究講座』、『中学校数学教材研究講座』などがあります。特に『数学事典』の編纂や、小倉金之助との共著である『現代数学教育史』は、数学教育の研究者にとって重要な文献となっています。

また、海外の優れた数学教育論や数学史に関する文献を日本に紹介するため、翻訳活動も積極的に行いました。『数学教育の進歩』を訳編したほか、ペリイやムーアの『数学教育論』、リーツマンの『初等数学史概要』などを翻訳し、日本の数学教育の国際的な視野を広げることに貢献しました。

主な著作

『新三角法初歩』（1925年、目黒書店）
『数学教育の諸断面』（1933年、目黒書店）
『数学教授法』（1933年、目黒書店）
『真実性に立つ算術新教育』（1936年、三友社）
『算術教育』 (教育研究叢書) （1937年、藤井書店）
『数学教育の諸問題』（1943年、目黒書店）
『数と数学』 (数学文庫) （1947年、理学社）
『数学物語』（1948年、革新社）
『一般数学 新制準據』（1949年、池田書店）
『幾何 新制準據』（1951年、池田書店）
『幾何学研究』（1952年、池田書店）
『解析Ⅰ』（1952年、池田書店）
『数学2問題精選』（1961年、池田書店）

主な共編著・監修

『数学教育の革新』編（1926年、目黒書店）
『数理統計学初歩』横地清 共著（1950年、池田書店）
『中学生の数学研究 実力養成 図形篇』小松喬生 共著（1952年、国民図書刊行会）
『中学生の数学研究 実力養成 数式編』長岡孝麿 共著（1952年、国民図書刊行会）
『解析新研究』野崎正雄 共著（1952年、池田書店）
『数学教育』 (教職教養シリーズ) 横地清 共著（1953年、誠文堂新光社）
『解析(1)基本問題集 教科書傍用』野崎正雄共編（1953年、池田書店）
『解析基礎的研究』内田虎雄 共著（1953年、池田書店）
『数学事典』編（1953年、池田書店）
『算数科教材研究』時田幸男共編（1955年、大日本図書）
『中学校数学科教材研究』時田幸男共編（1955年、大日本図書）
『数学1新研究 代数編』野崎正雄 共著（1956年、池田書店）
『算数教材研究講座』第1-6 戸田清共監修（1956-57年、金子書房）
『中学校数学教材研究講座』第1-6 戸田清共監修（1957年、金子書房）
『中等数学教育研究』時田幸男共編（1957年、大日本図書）
『現代数学教育史』小倉金之助共著（1957年、大日本図書）
『数学2新研究』野崎正雄 共著（1957年、池田書店）
『数学3新研究』野崎正雄 共著（1958年、池田書店）
『代数初歩 中学から高校へ』野崎正雄共著（1959年、池田書店）
『新制数学1新研究』野崎正雄 共著（1963年、池田書店）

主な翻訳

『数学教育の進歩』訳編（1931年、目黒書店）
ファイン『理論的並びに歴史的に見たる代数学の数系統』（1931年、共立社書店）
ペリイ、ムーア『数学教育論』（1936年、岩波文庫）
* W.リーツマン『初等数学史概要』（1943年、三省堂）

鍋島信太郎は、教育者、研究者、そして著述家として、日本の数学界と数学教育界に多大な貢献を残しました。彼の著作は、現在でも日本の数学教育の歴史を理解する上で重要な資料となっています。

もう一度検索