鍋田干拓地

鍋田干拓地：歴史と変遷

地理

愛知県弥富市の南部に広がる鍋田干拓地は、伊勢湾を干拓して造成された総面積400ヘクタールの土地です。この地は、名古屋港の埋立地や木曽岬干拓地に隣接しており、伊勢湾岸自動車道が横断する交通の要所でもあります。弥富木曽岬ICや湾岸弥富ICが近く、アクセスも良好です。

歴史

前史：水没した干拓地の過去

鍋田干拓地の歴史は古く、江戸時代末期には八穂新田、六野新田、上野新田として約390ヘクタールが干拓されました。しかし、度重なる水害や安政東海地震により水没し、長らく放置されていました。それでも、地権者の権利は残り、小字名も存在していました。地元の人々は、干拓地跡で葦を刈り、生計を立てていましたが、これが再度の干拓を妨げる要因の一つとなりました。

干拓事業の開始と初期の入植

食糧増産と農家の次男、三男対策を目的として、1946年（昭和21年）に農林省によって鍋田干拓事業が開始されました。当初の計画では633ヘクタールが対象で、一期工区と二期工区に分けられました。さらに木曽岬工区も計画されました。1955年（昭和30年）に潮止めが行われ、翌年には50名の入植者が生活を始めました。入植者は公募で集められ、選考と訓練を経て干拓地に入りました。初期の入植者の住居は、現在とは異なり、干拓地内に分散していました。1959年（昭和34年）には営農を開始し、同年9月までに工事の93％が完了しました。

伊勢湾台風による壊滅的な被害

1959年（昭和34年）9月26日、伊勢湾台風が鍋田干拓地を襲い、壊滅的な被害をもたらしました。高潮によって堤防が破壊され、干拓地全域が水没し、住宅地と耕地は全滅しました。当時318名いた在住者のうち、133名もの尊い命が失われました。この中には、入植者やその家族、さらには台風の数日前に現地入りしたばかりの若い入植者たちも含まれていました。

伊勢湾台風後の復旧と再編

台風後、干拓地の北部に内堤防（囲繞堤）が築かれ、そこから生活再建が始まりました。入植者の住宅もこの中に移されました。鍋田干拓地を囲む堤防も、台風級の高潮に耐えられるように強固に作り替えられました。復旧にあたり、一期工区は農業用地として再建されましたが、二期工区は公共用地に転用され、名古屋競馬の弥富トレーニングセンターや弥富野鳥園などが建設されました。木曽岬工区は後に木曽岬干拓地となりました。現在、鍋田干拓地として認識されているのは一期工区のみです。干拓地の周囲はその後も埋め立てが進みましたが、多くは工業用地として開発されました。このため、鍋田干拓地は、農業用の干拓事業としては最後のものとなりました。

年表

1833年（天保4年）：尾張藩などの出資により干拓工事着手
1837年（天保8年）：八穂新田、六野新田、上野新田が開発
1850年（嘉永3年）：水害で堤防が決壊、18人の死者を出す
1854年（安政元年）：地震により堤、田畑が沈下
1855年（安政2年）：水害で堤防が決壊、120戸中116戸が流出、30人が死亡
1858年（安政5年）：復旧が断念され、長らく放置
1946年（昭和21年）：国の直轄事業として鍋田干拓事業に着手
1955年（昭和30年）：潮止め工事完了
1956年（昭和31年）：入植開始
1959年（昭和34年）：伊勢湾台風で壊滅的被害、死者133名
1960年（昭和35年）：鍋田干拓堤防応急仮締切工事完了
1961年（昭和36年）：入植が終了
1964年（昭和39年）：干拓事業完了
1983年（昭和58年）：NHK鍋田ラジオ放送所運用開始
2002年（平成14年）：伊勢湾岸自動車道開通

問題点

鍋田干拓地内は人口密度が低く、住宅地が限られているため、し尿処理場やゴミ焼却場などの「迷惑施設」が建設されています。1993年（平成5年）には魚アラ処理施設の建設を機に、これ以上の迷惑施設は建設しないと約束されましたが、2002年（平成14年）にはゴミ焼却場が建設されました。さらに、下水道の最終処分場も隣接地に建設されています。一方で、これらの施設建設によって多額の周辺対策費が落ちているのも事実です。また、名古屋市に近く、道路交通網が発達したため、農地を物流施設に転用すべきという意見もあり、実際に多くの物流拠点が設けられています。不法投棄の問題も深刻化しています。

文化財

伊勢湾台風殉難之碑
八穂地蔵：江戸時代の八穂新田の地蔵として安置されていたが、1963年に鍋田干拓地内へ移された。

参照

『鍋田干拓 「汗と涙と実りの地」それを30年の時間で語りたい』鍋田干拓30周年記念誌実行委員会、1994年
『木曽岬町史（木曽岬村史改訂版）』木曽岬町役場、1998年3月31日発行

関連項目

昭和三大馬鹿査定

もう一度検索