鍵のかかる部屋

鍵のかかる部屋

『鍵のかかる部屋』は、三島由紀夫による短編小説で、1948年の日本の戦後混乱期を背景に、一青年の内面的苦悩を模索した作品です。この時代、敗戦の影響で日常生活は不安定さを増し、様々な社会問題に直面していたことから、本作はその混沌とした状況を反映しています。物語は、財務省に新しく入り込んだ官吏、児玉一雄の視点から語られます。

あらすじ

物語は、1948年の2月から4月の間に展開します。主人公である児玉一雄は、T大学を卒業したばかりの若い事務官であり、財務省の銀行局に勤務しています。彼は、過去に交際していた情婦である東畑桐子のことを思い起こしているのです。桐子は人妻であり、彼女との禁忌の関係は「鍵のかかる部屋」と呼ばれる秘密の空間で繰り広げられていました。

桐子が突然亡くなると、一雄の心には混乱と無関心が交差します。彼は桐子の死を悲しむことなく、むしろ彼女との思い出に耽ることになります。しかし、彼は桐子の娘、房子との不適切な関係に引き寄せられていきます。房子は無邪気な言動を持ち、その存在は一雄の心に新たな混乱をもたらします。

一雄と房子の関係は、厳密に言うと不健全なもので、彼は彼女に対してサディスティックな妄想を抱くようになります。このような心理的葛藤は、戦後の日本社会に存在する疎外感や混沌を象徴していると言えるでしょう。物語が進むにつれ、一雄は房子との関係が非常に危険なものであることを感じ取り、それに対する恐れや欲求の間で葛藤する様子が描かれます。これらの内部の描写には、読者自身の心の奥底にある欲望や恐怖を呼び起こさせる力があります。

作品の成り立ち

本作が発表された当時、三島由紀夫は既に文壇での地位を確立していましたが、この作品は彼にとって新たな挑戦でもありました。『鍵のかかる部屋』は、当時の混乱した情勢を背景に描かれており、登場人物の心情や行動には、まるで社会の荒んだ部分を鏡で映し出すような効果があります。

三島は、この作品で内面に焦点を当て、表現方法を変えようとしました。これにより、彼の従来の硬質で明瞭な文体から、より流れるような心理描写へと移行します。このような文体の変化は、彼自身の文学スタイルの実験と試行錯誤の成果であり、その後の作品にも影響を与えることとなります。

評価と影響

『鍵のかかる部屋』は、三島自身の言葉にもあるように、後世の批評においても重要な作品として扱われています。特に、作品におけるサディズムや内面の混乱は、政治的背景との関連性が指摘されることが多く、特に戦後の日本文学におけるサブカルチャーの先駆とも見なされています。

またこの作品は、三島による文学の内的矛盾、つまり愛、欲望、死のテーマに触れた作品でもあり、彼の文学の中でも特に重要な位置を占めています。最終的に『鍵のかかる部屋』は、三島由紀夫の文体的冒険を示す作品として、高く評価されることになるでしょう。

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