鎚金

鎚金（ついき）は、別名「鎚起（ついき）」とも呼ばれ、一枚の金属板を槌で打ち出し、立体的な形状を作り出す鍛造技術の一つです。具体的には、薄い金属板を裏側から槌で打ち出し、表面に肉彫りを施すことで、意匠を凝らした金属製品を生み出します。この技法は、金属の持つ伸展性を最大限に活かし、薄くとも堅牢な器物を作り出すことを可能にします。

製作過程においては、まず鋳造製の原型、もしくは当金（あてがね）や松脂（まつやに）といった支持体の上に、鉄や銅などの金属板を重ねます。その上から、角鏨（かくたがね）や鎚を用いて、金属板を丹念に打ち込んでいきます。この作業を通じて、金属板は徐々に原型に沿った形状へと変化し、最終的に目的とする形状へと成形されます。

鎚金の歴史は古く、古墳時代には既にその技法が用いられていたことが確認されています。奈良時代には、「鎚鍱像（ついちょうぞう）」と呼ばれる、鎚金によって制作された押し出し仏が存在したことが知られています。これらの仏像は、当時の高度な金属加工技術を示す貴重な遺産です。時代が下るにつれて、鎚金の技術は甲冑の面頬（めんぼお）や、優美な銅花瓶、実用的なやかんなど、多岐にわたる製品に応用されるようになりました。

特に新潟県では、弥彦山（やひこやま）から産出される豊富な銅を原料とした鎚起銅器（ついきどうき）が、江戸時代から作られるようになりました。この地域の鎚起銅器は、その独特な技法と美しい仕上がりで知られ、現在でも玉川堂（ぎょくせんどう）などの工房で伝統が受け継がれています。鎚金は、単なる金属加工技術にとどまらず、日本の歴史や文化と深く結びついた、貴重な伝統工芸と言えるでしょう。

参考文献
鈴木友也「鎚金」『日本歴史大事典 2』（小学館 2000年） ISBN 978-4-09-523002-3

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