鏡の中の女

鏡の中の女

概要

『鏡の中の女』（原題：Ansikte mot ansikte）は、スウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンが1976年に監督・脚本を手掛けた作品です。この映画は、スウェーデンでは約3時間のテレビ映画として放送された一方、他国では短縮が施されて劇場公開されました。第29回カンヌ国際映画祭では、コンペティション部門には含まれませんでしたが、その独自の視点と深いテーマが評価されました。

あらすじ

物語は、精神科医エニーが家族のもとに戻るために祖父母の家へ向かうシーンから始まります。彼女がかつて住んでいた部屋に通されると、暗闇の中に現れた老女の幻覚に襲われ、恐怖を覚えます。エニーの夫エリックは出張中で、14歳の娘アンナはキャンプに参加しているため、彼女は一人で孤独を感じています。

病院では、回復が見られない患者マリアを担当しており、医師としての無力感に苛まれています。ある日、同業者のパーティーでマリアの異母兄トーマスと出会い、彼との会話がエニーの心に変化をもたらします。彼もまた複雑な家庭環境を持ち、彼女に自らの悩みを打ち明けてきます。

エニーは帰宅後、祖父母の老いた姿に直面し、自殺未遂の知らせを受けて急いで彼女の家に戻ります。そこで体験する恐怖と孤独の中で、再び老女の幻影に出会い、精神的に絶望する彼女は薬を過剰に摂取してしまいます。

人間の関係とトラウマ

エニーは意識を失い入院することになりますが、その間に彼女の過去と対峙する夢を体験します。事故で亡くなった母親との関係や、祖母から受けた愛情不足、さらには育った環境がもたらした心理的な影響を見つめ直します。その結果、彼女は自らの不安定さが家族との関係を阻害していることに気付くのです。

入院した際、夫や娘が訪れますが、そこにはすれ違いやよそよそしさが漂い、エニーは孤独感を一層強めます。特に娘アンナが感じた「ママは自分を好きではない」という言葉は、エニーにとって鋭い刺のように突き刺さります。

トーマスもまた、彼の失恋に続いてエニーとの関係を築くことができずに去っていきます。孤独に直面したエニーは、祖父母の愛情深い姿に思いを馳せ、愛の力によって人間の尊厳が保たれることを再認識します。

結末

物語の終盤、エニーは電話を取り、病院に復帰する意思を伝えます。彼女の心には、新たな希望と共に、愛の重要性や生きる意味が芽生えてきたのです。この作品は、個々の心の葛藤や人間関係の脆さ、愛の力を深く描いており、そのテーマは今なお観客に深い印象を与えています。

映画『鏡の中の女』は、ベルイマン監督独特の視点によって、多様な人間の心理や境遇を鮮やかに映し出しており、見る者に深い洞察をもたらす作品です。

もう一度検索