鏡の国のアリス (広瀬正)

概要

『鏡の国のアリス』は、日本の作家・広瀬正によるSF小説で、1972年に発表され、1973年には第4回星雲賞の日本長編部門を受賞しました。この作品は、特異な世界観を持ち、左右が反転したユニークな空間を舞台に展開されます。物語は、美容整形外科医の「私」が主人公の木崎浩一と出会うことから始まります。彼は、元の世界に戻るために、身体を女性にすることを相談しにやって来ました。

あらすじ

木崎は自身がどのようにしてこの奇妙な世界に来てしまったのかを語ります。彼は、通常の肉体構造が逆転した世界に住んでいたと主張します。ある日、男湯と女湯が左右対称に作られた銭湯で、リラックスしている最中、不意に女湯の方に移動してしまいます。そこで目にしたのは、全てが反転した世界でした。その後、彼は自分の住むアパートも消えてしまったことに気づき、友人たちに連絡しようとしても、自分の存在を知る者はいませんでした。事情を把握できない警察は、彼を困惑させ、最終的に科学評論家であり「左ききの会」の運営者である朝比奈六郎が彼を助けることに決めます。

鏡の仕組みと科学的考察

木崎の話を聞いた朝比奈は、この怪現象を解明するために、鏡の働きや物質の対称性および非対称性の原理、さらには反物質、メビウスの輪やクラインの管といった概念について説明を始めます。彼の考察は非常に多岐にわたり、木崎の肉体も普通の人間とは異なり、左右が逆転していることが明らかになります。これによって、彼がどのようにしてこの世界に来たのか、その理屈を探ることが探究の中心に据えられます。

帰還のための選択

木崎は、元の世界へ戻るためには銭湯の女湯に再度入る必要があるのではないかと考えます。しかし、そのためには様々な課題を乗り越えなければなりません。次第に、彼の心にはこの新しい世界での生活と人々との関係が芽生えていきます。美容整形外科医である「私」は、木崎に対して好意を持つ女性を紹介し、彼が元の世界に戻ることを拒む機会を提供します。この新しい世界が必ずしも悪くないという考えが、木崎の心に芽生え始めるのです。

結論

『鏡の国のアリス』は、SFとしては珍しい視点を持ちながらも、人間関係や心の葛藤を深く描いた作品です。広瀬正は、幻想的な要素と科学的な探求を組み合わせて、独自の世界観を構築しました。読者は、木崎の葛藤を通じて、自らの存在意義や新たな選択について考えさせられることでしょう。この作品は、文学と科学が交差する地点で、多くの示唆を備えた優れた作品と言えます。

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