鏡保幸

鏡 保幸（かがみ やすゆき、1950年2月27日生まれ）は、日本のラグビー界で選手および指導者として重要な足跡を残した人物です。埼玉県で育ち、プレーヤーとしては主にスタンドオフ（SO）のポジションを務めました。

高校時代は大東文化大学第一高校でラグビーに取り組み、その後大東文化大学へ進学。大学でもSOとしてチームの中心選手として活躍しました。1972年に大学を卒業した後は、社会人ラグビーチームの東京三洋電機に所属し、現役を続けました。

プレーヤーとしてのキャリアを終えた後、1981年に母校である大東文化大学ラグビー部の指揮を執ることになります。当時の大学ラグビー界において、外国人留学生をチームの主力として積極的に起用する手法はまだ珍しいものでしたが、鏡氏はトンガ出身のホポイ・タイオネ、ノフォムリ・タウモエフォラウ、シナリ・ラトゥ、ワテソニ・ナモアといった身体能力の高い選手たちをチームの核に据えました。加えて、付属校である大東大一高出身の青木忍をはじめ、高校時代から注目されていた選手やポテンシャルのある選手たちを巧みに組み合わせ、独自のチームを作り上げました。

鏡氏の指導の下、大東文化大学は強力なフィジカルとスピードを兼ね備えた新しいスタイルで躍進し、全国大学ラグビーフットボール選手権大会（大学選手権）で通算3回の優勝を達成しました。特に印象深いのは、初の栄冠に輝いた1986年度の第23回大会決勝です。この試合で、当時圧倒的な強さを誇っていた早稲田大学を12対10という接戦の末に破り、歴史的な初優勝を果たしました。この出来事はマスコミで「大東旋風」「トンガ旋風」として大きく取り上げられ、大学ラグビー界に大きな話題を巻き起こしました。

その後も、大東大は早稲田や明治大学、同志社大学といった長年強豪として君臨してきた伝統校を相手に、持ち前のパワーラグビーで勝利を重ねていきました。その革新的な戦いぶりは、時に伝統校のOBやファンから厳しい声を受けることもありましたが、トンガなどラグビーが盛んな国からの優れた留学生を戦力として導入したことは、長らく同じようなスタイルや伝統に囚われがちだった日本の大学ラグビー界に新たな考え方と活気をもたらしたと言えるでしょう。この手法には賛否両論がありましたが、結果として日本のラグビー全体に多様なプレースタイルが広がるきっかけの一つとなったことは間違いありません。

鏡氏が監督を務めていた頃の大東大ラグビー部は、選手間の絆が強く、チーム全体に大らかな雰囲気があったとされています。試合後には選手たちが揃って居酒屋に立ち寄り、ラグビー談義に花を咲かせるのが楽しみの一つだったようです。鏡氏自身の指導スタイルも、細かな練習方法を指示するのではなく、選手たちの自主性を重んじるものでした。大学選手権初優勝後のインタビューでは、「練習方法など、僕は何もいいません。自分たちで考えている」と語り、自身の役割を「ボクの仕事は方向づけとムード作りだけ」「彼らのいいところを見て、伸ばしてやりたい」と表現しています。選手の長所を見抜き、それを伸ばすことに主眼を置いた、選手の主体性を引き出す指導法であったことがうかがえます。

大東文化大学が大学選手権で台頭した時期は、大会出場権を争う関東大学ラグビー交流試合において、リーグ戦グループのチームが対抗戦グループのチームに苦戦する、いわゆる「リーグ戦グループの暗黒の時代」とも称される時期でした。そのような状況下で、鏡氏が率いる大東大が大学選手権で結果を出し続けたことは、その指導力の高さを示すものです。また、彼のチームが示した成功は、リーグ戦グループ全体のレベルアップにも刺激を与えたと考えられています。後に法政大学が古豪としての力を再び示し、関東学院大学が強豪へと成長するなど、リーグ戦グループ全体の競技力向上に間接的に貢献した中心人物の一人としても、鏡保幸氏の功績は評価されています。

指導者としてだけでなく、ラグビー界全体の運営にも関わり、2009年には関東大学ラグビー連盟の理事長に就任し、大学ラグビーの普及・発展に尽力しました。2013年からは再び母校である大東文化大学ラグビー部の特別顧問として、後進の指導やチームの強化に関わっています。鏡保幸氏は、その革新的なアプローチと指導者としての手腕によって、日本の大学ラグビー史に新たな時代を切り拓いた功労者として記憶されています。

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