鐘鋳堰

鐘鋳堰（かないせぎ）

鐘鋳堰は、長野県長野市に位置する歴史ある用水路です。別名、鐘鋳川とも呼ばれます。この水路は、裾花幹線導水路から取水し、約40.19ヘクタールの農地を潤しています。善光寺平用水の中で最も古いものの一つとされ、その開削は平安時代初期にまで遡ると考えられています。現在、鐘鋳堰は善光寺平土地改良区の管轄下に置かれ、鐘鋳堰組合によって維持管理されています。

地理

鐘鋳堰は、長野市妻科の鐘鋳分水工で裾花幹線導水路から分水されます。そこからしばらくは裾花川の河岸段丘を利用して流れ、妻科神社付近からは台地の末端を迂回するように市街地を横断します。康楽寺付近で北上し、三輪田町で湯福川の下をくぐり、三輪では浅川扇状地の縁に沿って東へ進みます。現在の北長野駅付近で水路は二分され、南流するものは北長野駅付近で北しなの線を横断した後、東流して小島用水に合流します。一方、東流するものは、明治初期までは浅川の下を石樋で通過し、新田川に合流していましたが、現在は鉄道用地となり分断されています。しかし、浅川を鉄管で横断させ新田川に注ぐ流路は依然として存在し、稲田地区には「鐘鋳堰」としてその姿を残しています。

歴史

鐘鋳堰の正確な起源は不明ですが、長野市三輪で発見された平安初期の条里遺跡と関連付けられています。この遺跡の北限を流れる鐘鋳堰は、同時期に開発されたと考えられ、水田を潤す役割を担っていたと推測されています。また、「一遍上人絵伝」には鐘鋳堰が描かれており、少なくとも鎌倉時代中期にはその存在が確認できます。しかし、近世以前の詳しい記録は残っていません。

伝承によると、松代城代の花井吉成が裾花川の改修と同時に鐘鋳堰や八幡堰を開削したとされています。実際には、裾花川の流路変更に伴う水路の大改修が行われた結果、このような伝承が生まれたと考えられていますが、史料が不足しているため明確なことは不明です。いずれにしても、この頃には現在の形になったとされています。

松代藩の支配下では、道橋奉行の管轄下に置かれ、現場管理責任者として堰守が置かれました。この役職は妻科村の徳武家が世襲し、扶持と苗字帯刀の身分が与えられました。堰守を責任者として、灌漑範囲の13ヶ村で構成された鐘鋳堰組合が管理を行い、普請や取水にあたっていました。必要に応じて寄合が召集され、合議が行われていました。江戸時代の鐘鋳堰組合に加盟していた13ヶ村は、松代藩領の妻科村、三輪村、﨤目村、桐原村、吉田村、中越村、下越村、北高田村、北平林村、西和田村、稲積村、幕府領の権堂村、そして椎谷藩領の問御所村でした。これらの地域で約5000石の灌漑を行っていました。

裾花川の河床低下に伴い、現在の南長野、うるおい館裏手に簗手を用いた堰を築いて取水していました。渇水期には、夜間に取水し、昼間は八幡・山王堰の栗田組合が簗手を破壊し、下流の八幡・山王堰へ水を融通していました。そのため、期間中は破壊された簗手を再び構築する必要があり、その人足と資材費は大きな負担となっていました。水を多く必要とする時期には、下流の稲積村から上流へ順に水を融通する慣行がありました。江戸時代には、善光寺周辺の都市化が進み、塵芥の投棄や護岸の迫り出しが問題となっていました。また、湯福川との立体交差では、氾濫のたびに大量の土砂が堆積し、多大な労力を要していました。

明治初期には、権堂村と問御所村が組合から脱退しましたが、取水は従来の慣行に従って進められました。大正10年頃には、裾花川の水量に限界があるとして、地域内の水源や犀川水利の研究が進められていました。大正13年には、大旱魃により裾花川の水量が低下し、八幡・山王堰組合側との水争いが発生し、裾花川水利の改善の必要性が明確になりました。両用水組合の対立は、昭和5年12月の八幡堰対鐘鋳堰用水訴訟事件和解協定の締結まで続きました。

昭和3年には、善光寺平の農業用水を根本的に改良する目的で、善光寺平農業水利改良期成同盟会が設立され、昭和5年には善光寺平耕地整理組合（昭和26年から土地改良区法の施行に伴い現在の善光寺平土地改良区に改称）に改称されました。そして、昭和7年から同11年まで善光寺平土地改良事業が行われました。この結果、鐘鋳堰は鉄筋コンクリート製の裾花頭首工から取水する裾花幹線導水路からの取水に転換し、現在まで続く安定的な水量を確保することとなりました。

主要分水路

中沢川: 妻科神社の南方で分水し、東方へ流れて北八幡川に合流します。北条、居町、平林、高田を潤します。現在の北条地区一帯には、京都の松尾神社領の今溝荘があり、平安時代末期に開削されました。今溝の名は中沢川に由来すると考えられています。
七ツ釜落し: 康楽寺の南方で分水し、南流して中沢川に合流します。権堂、問御所、居町、北条を潤します。
松林幹線: 三輪ガスタンク付近で分水し、南東に流れて六ヶ郷用水に合流します。三輪を潤します。堀切沢の水を流下させています。
三輪幹線: 﨤目で分水し、南流して北八幡川に合流します。平林を潤します。北平林村の灌漑は大部分をこの用水に依存しており、江戸時代から明治にかけて分配を巡る問題が頻発しました。宇木沢の水を流下させています。

呼称

江戸時代の史料には、「かないせき」、「かんねいせき」、「鐘居堰」、「かねゐせき」など様々な表記が見られますが、現在は「鐘鋳堰」または「鐘鋳川」と呼ばれています。鐘鋳堰周辺で鋳物生産が盛んだったため、この名前がついたとする説もありますが、「鐘鋳川」の名称が現れるのは明治時代以降であり、江戸時代には「鐘居堰」の表記が多く見られます。鐘鋳堰の旧取水口付近の両岸の字名は「鐘ヶ瀬」と「居町」であり、この二つから取ったとする説もあります。長野県土地改良区の『長野県水利系統図索引』は「鐘鋳川」を採用していますが、鐘鋳堰組合が現存し、歴史的に堰と表記する史料が江戸期から明治にかけて多く見られるため、ここでは「鐘鋳堰」を採用しています。

脚注

注釈

出典

参考文献

長野県土地改良史編集委員会『長野県土地改良史』資料編、長野県土地改良事業団体連合会、1999年。
長野県土地改良史編集委員会『長野県水利系統図索引』長野県土地改良事業団体連合会、1999年。
長野県土地改良史編集委員会『長野県土地改良史』第二巻土地改良区誌編、長野県土地改良事業団体連合会1999年。
長野県経済部耕地課『善光寺平農業水利改良事業沿革史』長野県経済部耕地課、1938年。
長野県『長野県町村誌』北信篇、長野県町村誌刊行会、1936年。
長野市誌編さん委員『長野市誌』第二巻、長野市、2000年。
長野市誌編さん委員『長野市誌』第三巻、長野市、2001年。
長野市誌編さん委員『長野市誌』第五巻、長野市、1997年。
長野市誌編さん委員『長野市誌』第八巻、長野市、1997年。
霜田巌『鐘鋳堰の話』鐘鋳堰組合、1982年。

関連項目

長野盆地（善光寺平）
善光寺平用水
疏水百選
用水路
土地改良区

外部リンク

つれづれなる水の流れ　～長野市の鐘鋳堰～

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