鐙骨

鐙骨（あぶみこつ）について

鐙骨は、ヒトや多くの動物の中耳に存在する最も小さな骨であり、音響信号を内耳に伝える役割を果たしています。形状は鐙に似ており、直径は約3 × 2.5 mmと非常に小さく、音の振動を効率的に伝達するための独特の構造を持っています。

構造

鐙骨は中耳にある3つの耳小骨の一つで、他には槌骨（つちこつ）と砧骨（きぬたこつ）が含まれます。鐙骨はその名の通り、鐙の形をし、特に卵円窓と呼ばれる構造に接続されています。卵円窓は内耳の入り口であり、鐙骨の底部はここに乗って音の波動を内耳に伝えます。鐙骨は頭部と底部から成り、頭部は砧骨と関節を形成し、前脚（crus anterior）と後脚（crus posterior）がこれらのパーツをつなぎます。これらの各部位は、音の振動を効果的に伝えるために役立っています。

発生

鐙骨は、胚の第6週から第8週にかけて第2咽頭弓から発生します。その発生過程では、中央に閉鎖孔が形成されますが、これは胎生期に鐙骨動脈が存在していた名残であり、人間では正常な発育の過程で通常は消失します。

他の動物における鐙骨

哺乳類以外の四肢動物においては、鐙骨に相同する骨は一般的に耳小柱（columella）と呼ばれます。爬虫類では、鐙骨と耳小柱の両方の名前が使われることがあります。魚類では、同様の機能を持つ骨は舌顎骨（hyomandibular）と呼ばれ、両生類においてはpars media plectraという名称が使用されています。

機能

鐙骨は砧骨と内耳の間に位置し、音の振動を卵円窓に伝える重要な役割を担っています。この音の伝達を安定させる役割を果たしているのが、顔面神経により制御されるアブミ骨筋です。

臨床的関連

耳硬化症は、鐙骨における異常な骨のリモデリングが特徴的な疾患です。この疾病では、鐙骨が卵円窓に付着して音の伝達を妨げるため、伝音性難聴を引き起こすことがあります。耳硬化症は約1%の人々に見られ、特に目立った難聴を伴わない症例も多いです。この病気は通常、若年層や女性に多く見られます。治療法には、アブミ骨切除術（stapedectomy）やstapedotomyが含まれており、いずれも人工プロテーゼを用いて音の伝達を回復させる手法です。

歴史

鐙骨の発見は一般的に1546年にナポリ大学のGiovanni Filippo Ingrassia教授に帰されますが、彼の記述は1603年に出版されたため、真相はやや不明確です。また、スペインの解剖学者Pedro Jimenoが1549年に著した論文においても、鐙骨が初めて記述されています。

このように、鐙骨は体内で非常に重要な音の伝達機構としての役割を担っています。その独自の構造や機能、疾患との関連性により、耳科学や医療分野での研究が進められています。

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