長倉洋海

長倉洋海（ながくら ひろみ）

1952年10月26日生まれ。北海道釧路市出身の日本の写真家、フォトジャーナリスト。

経歴と思想

北海道釧路湖陵高等学校を経て同志社大学法学部を卒業。大学在学中、1971年から1977年にかけてはベトナム戦争の終結期にあたり、新聞や雑誌には戦争に関する写真が溢れていた。特に岡村昭彦、石川文洋、沢田教一、ロバート・キャパ、ラリー・バローズといった国内外の著名な報道写真家が捉えたベトナムの現実に強い衝撃を受け、命の危険を顧みず戦場を記録する彼らの姿に惹きつけられ、報道写真家としての道を志すようになった。

当初、写真の基礎を学ぶ場として新聞社や通信社での勤務を考え、1977年に時事通信社に入社。しかし、国内事件の取材が中心で海外特派の機会が訪れなかったため、自身の目指す活動との隔たりを感じ始める。入社から約3年後の1980年1月、フリーランスのフォトジャーナリストとして独立することを決意し、同社を退職した。

フリーとなって以来、長倉洋海は世界各地の紛争地や社会問題の現場へと赴き、そこで生きる人々の姿を独自の視点で捉え続けている。エルサルバドルの内戦、アフガニスタンの動乱、アマゾンの先住民など、彼が向き合ってきたテーマは多岐にわたる。表面的な悲惨さだけでなく、困難な状況下でも失われることのない人間の尊厳や、生活を立て直そうとする人々の力強い営みに光を当てた作品は、多くの人々に感銘を与えている。

受賞と評価

その長年にわたる活動と質の高い報道写真は高く評価されており、主要な写真賞を多数受賞している。1983年には日本写真協会新人賞を受賞し、若手として注目を集めた。1993年には写真集『マスード 愛しの大地アフガン』によって日本の写真界で最も権威ある賞の一つである土門拳賞を受賞。その他にも、『サルバドル 救世主の国』で日本ジャーナリスト会議奨励賞、『人間が好き アマゾン先住民からの伝言』でサンケイ児童出版文化賞、『ザビット一家、家を建てる』で講談社出版文化賞を受賞するなど、幅広い分野でその功績が認められている。

国際的な舞台でもその存在感を示しており、2006年9月にはフランスペルピニャンで開催された国際フォトジャーナリズム祭において、日本人として初めて招待写真家として参加。世界のフォトジャーナリズム界における第一人者としての地位を確立した。

次世代への影響

長倉洋海は、自身の撮影活動だけでなく、次世代のジャーナリストや写真家の育成にも熱心に関わっており、多くの若者に影響を与えている。フォトジャーナリストとして活動する高橋美香は、学生時代に長倉の写真に触発されパレスチナ問題に関心を抱き、その後の自身のキャリア形成に大きな影響を受けたと語っている。このように、彼の作品や生き様は、社会の現実に目を向け、それを伝えようとする後進たちの指針となっている。

現在もなお、世界の現場を訪れ、精力的な取材活動を続けている。写真を通して人間の真実に迫ろうとする長倉洋海の探求は、今も続いている。

主な写真集

『サルバドル 救世主の国』宝島社
『マスード 愛しの大地アフガン』宝島社
『地を這うように 長倉洋海全写真1980-96』新潮社
『人間が好き アマゾン先住民からの伝言』福音館書店
『獅子よ瞑れ』福音館書店
『ザビット一家、家を建てる』偕成社
『きみが微笑む時』福音館書店
『涙 誰かに会いたくて』PHPエディターズ・グループ
『アフガニスタン 山の学校の子どもたち』偕成社
『西域の貌』山と渓谷社
『地を駆ける』平凡社

主な著書

『内戦エルサルバドルの民衆』晩聟社
『フィリピン我が祖国』れんが書房新社
『激動の世界を駆ける』講談社文庫
『フォト・ジャーナリストの眼』岩波新書
『峡谷の獅子　司令官マスードとアフガンの戦士たち』朝日新聞社
『マスードの戦い』河出文庫、のち増補版
『鳥のように、川のように 森の哲人アユトンとの旅』徳間書店、のち徳間文庫
『ぼくが見てきた戦争と平和』バジリコ社
『私のフォト・ジャーナリズム』平凡社新書
* 『アフガニスタン　マスードが命を賭けた国』新潮社、増補版・白水社

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