長尾景忠

長尾景忠（ながお かげただ）

「長尾景忠」という名は、日本の歴史において複数の時代にわたる武士によって名乗られました。特に知られているのは、鎌倉時代中期に生きた人物と、南北朝時代から室町時代前期にかけて活躍した人物の二人です。これらの同名人物は、しばしば系図などで同一視されることがありますが、活動した時代が大きく異なる別人であることが明らかとなっています。

鎌倉時代の長尾景忠（四郎）

鎌倉時代中期に存在した長尾氏の武士です。彼は長尾氏の第四代当主にあたるとされます。この時代の長尾氏は、宝治元年（1247年）に発生した宝治合戦において、有力御家人である三浦氏に殉じた一族が多く、壊滅的な打撃を受けました。この激変の中で、景忠は数少ない生き残りとなった人物の一人でした。後に登場する南北朝時代の景忠とは、活動時期が七十年から八十年も離れており、明らかに別人と考えられています。しかし、『長尾正統系図』をはじめとする一部の系図では、この二人の景忠を同一人物として扱っている例が見られます。これが、鎌倉時代中期における長尾氏の系図を複雑にし、混乱を招いている要因の一つとなっています。

南北朝・室町時代の長尾景忠（左衛門尉）

南北朝時代から室町時代前期にかけて活躍した武士で、長尾氏の第七代当主とされています。この人物は、後に「関東長尾氏」と呼ばれる系統の祖にあたる重要な存在です。彼の出自についてはいくつかの説が存在しており、必ずしもはっきりしていません。一般的には、長尾景能の子である景為の嫡男とする系図が多いようです。一方で、長尾藤景の娘を妻に迎えたことで家を継いだという説や、長尾藤明（あるいは藤景）の子とする説、あるいは長尾氏の親族にあたる千秋上杉藤氏（藤明らの兄弟と推測される人物）の子とする説もあります。さらに、宝治合戦で衰退した長尾氏の跡を、親族である鎌倉氏の後裔が継いだ家系に連なる人物であった可能性も指摘されており、彼の生まれた家筋が長尾氏の具体的にどの流れに属していたのかは、完全に判明しているわけではありません。

景忠自身は、室町幕府から関東管領に任じられた上杉憲顕の非常に頼りになる家臣として、各地を転戦しました。時には上杉氏の代表として、足利尊氏の軍勢に従って戦場に出て、優れた武功を挙げたとも伝えられています。特に、石動山攻めなどで功績を立て、「二引旗（にびきはた）」という旗印を足利尊氏から賜ったという逸話もあります。越後守護であった上杉憲顕のもとでは、越後守護代という重要な役職を務めました。康永二年（1343年、南朝の元号では興国四年）に憲顕が鎌倉へ戻った後も、越後の国内の経営に尽力しています。観応の擾乱の後、一時的に地位を失っていた憲顕が復権すると、その下で今度は上野国の守護代に任じられました。彼は生涯を通じて上杉憲顕の最も信頼する腹心として行動し、その活躍を通じて長尾氏が後に各地で力を伸ばしていくための基盤を確立しました。景忠の子孫の多くは、関東各地で守護代などの要職を担うようになります。ただし、越後守護代として知られる長尾氏の系統は、景忠の弟にあたる人物の流れから出ています。

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