長尾藤景

長尾藤景（ながお ふじかげ）という名前は、日本の歴史、特に室町時代において、二人の人物が名乗ったことが知られています。一人は南北朝時代初期に長尾氏の宗家を継承した武士、もう一人は戦国時代に越後国の戦国大名である上杉謙信に仕えた武将です。本項では、これら同名の二人の長尾藤景について、それぞれ解説します。

長尾藤景（南北朝時代）

南北朝時代初期に活躍した長尾藤景は、室町時代の武士です。彼の家系は、元々は上杉氏の流れを汲み、後に上野国の佐貫長尾家（千秋長尾家とも呼ばれる）の祖となる系統に属していました。

藤景は上杉頼成の子として生まれました。彼の母は長尾景基の娘にあたります。そのため、初めは上杉氏を名乗り、上杉藤景として知られていました。

鎌倉時代中期の宝治合戦（1247年）において、長尾氏の一族はその多くが滅亡するという壊滅的な被害を受けました。こうした混乱と危機的な状況の中、かろうじて生き残った長尾景忠が長尾氏宗家の当主として家を立て直しました。しかし、景忠の嫡孫にあたる基景には男子の後継ぎがいませんでした。

そこで、血筋を絶やさぬため、基景の姉妹の子、つまり基景の外甥にあたり、かつ母方が長尾景基の娘であるため長尾氏の外孫にあたる藤景が、基景の養子として迎えられることになりました。これにより、上杉氏出身であった藤景が、長尾氏宗家の家督を継承するという異例の事態が生じました。

しかしながら、藤景自身にも男子がいなかったため、長尾氏宗家の家督は実弟である藤明が継承することになりました（ただし、異説として、藤景の子に氏景という人物が存在したとする系図も一部に見られます）。

長尾藤景（戦国時代）

戦国時代に生きた長尾藤景は、越後国の武将です。彼は長尾氏の一門である下田長尾氏の当主を務め、越後国内の高城を居城としていました。

彼の諱に含まれる「藤」の字については、当時の室町幕府将軍である足利義藤（後の足利義輝）から偏諱を受けたものと推測されていますが、これを直接証明する確たる史料は存在しません。

藤景は、越後国の戦国大名であり、長尾氏出身でありながら関東管領も兼ねた上杉謙信（長尾景虎）に仕えました。彼は謙信の有力な家臣団である「七手組」（前期）の一人として数えられることもあり、これは彼が謙信の初期の主要な家臣の一人であったことを示唆しています。この七手組には、彼を含め、柿崎景家、北条高広、斎藤朝信、直江景綱、中条藤資、本庄実乃といった、上杉家の重鎮たちが名を連ねていました。

藤景は上杉氏のために各地を転戦したと考えられますが、主君である謙信との関係に大きな転機が訪れます。永禄4年（1561年）に甲斐国の武田信玄との間で戦われた第四次川中島の戦いにおける軍議の席において、当時の上杉政虎（後の謙信）が示した戦術に対し、藤景が公然と批判を行ったと伝えられています。この出来事により、藤景は主君である謙信との関係が悪化し、両者の間に深い対立が生じることになったと言われています。

その後、永禄11年（1568年）、当時の上杉輝虎（謙信）の命を受けたとされる重臣、本庄繁長によって祝宴に招かれました。この祝宴の席で、藤景は同行していた弟の右衛門尉景治と共に謀殺されたと伝えられています。これは、謙信との対立の末の粛清であったと考えられています。

藤景兄弟の死と同じ永禄11年には、本庄実乃の攻撃によって、藤景の居城である高城城も落城しました。この時、高城城を守備していた家老の長尾興里は、城を落ち延びる途中で自刃したとされています。

一方、藤景兄弟殺害に関わった本庄繁長は、この際に自身も手傷を負ったと伝わります。にもかかわらず、上杉謙信からの恩賞がなかったこと、さらに甲斐国の武田信玄からの誘いもあったことから、繁長は上杉氏に対する不満を募らせました。これが、まもなく同年4月に発生する本庄繁長の乱の引き金の一つとなったとも考えられています。

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