長崎巌

服飾研究者であり、共立女子大学家政学部教授を務める長崎巌（ながさき いわお）は、日本の染織文化および服飾史研究の第一人者として知られている。1953年5月19日に大阪市で生まれた。

長崎氏は、東京藝術大学美術学部芸術学科で芸術学を学び、さらに同大学院美術研究科博士後期課程で研究を深めた。大学院を修了した後、1982年に東京国立博物館に入り、法隆寺宝物室に勤務した。その後、工芸課の染織室に移り、日本の歴史的な染織品の研究、保存、展示に長年にわたり携わった。特に1990年からは染織室長を務め、博物館における染織分野の中心的な役割を担った。この博物館での実物資料と向き合った経験は、その後の研究活動の基盤を築いた。

2002年には共立女子大学家政学部教授に就任し、教育者として後進の指導にあたるとともに、研究活動を継続している。大学においても、博物館で培った知見を活かし、染織、服装、意匠など、日本の染織文化史や服飾文化史に関する幅広いテーマを研究対象としている。

長崎氏の研究アプローチは、単なる文献調査にとどまらず、実際の染織品を綿密に調査・分析することに重きを置いている。古裂や歴史的な衣装が持つ技術、美しさ、そして歴史的な背景を丹念に読み解く作業は、彼の研究の核心をなすものである。また、過去に日本から海外へ渡ってしまった貴重な染織品の調査にも積極的に取り組み、その所在や現状を明らかにする活動も行っている。これは、文化財の記録と保護という観点からも非常に重要な貢献である。

長年にわたる研究活動とその成果は高く評価されており、2005年には日本のきもの文化の振興に貢献した功績に対して「きもの文化賞」が贈られた。

長崎氏は多数の著作を通じて、その研究成果を広く発表している。専門家向けの学術的な著作としては、日本の伝統的な織物である絣を扱った『絣』や、日本の装いの歴史を代表する小袖に焦点を当てた『日本の染織 小袖』、『小袖 日本伝統の装い、その華やかな歴史をたどる』、そして海外に流出した日本の染織品を網羅した『在外日本染織集成』などがある。これらの著作は、日本の染織史研究における基本的な文献となっている。

また、一般の読者に向けて、日本の染織や服飾文化の魅力を分かりやすく解説する著作も執筆している。『染と織を訪ねる』や『「きもの」と文様 日本の形と色』、『きものと裂のことば案内』といった書籍は、日本の伝統的な美意識や文化に触れる入り口として多くの人々に読まれている。

さらに、長崎氏は多くの書籍の監修も務めており、幅広い分野で専門知識を提供している。例えば、『木綿古裂をたのしむ』、『春夏秋冬かさねいろ 平安の配彩美』、『すぐわかる茶の湯の裂地』、『日本の伝統色配色とかさねの事典』、『きもの 和のデザインと心』、『Kimono Beauty : シックでモダンな装いの美 江戸から昭和』などがある。これらの監修書は、茶道の裂地から着物のデザイン、伝統的な配色に至るまで、日本の染織・服飾に関連する多様なテーマを扱っており、専門的な視点からの解説が付されている。

長崎巌氏の学術研究、博物館での実践的な活動、そして多岐にわたる著作および監修活動は、日本の豊かな染織・服飾文化史の理解を深め、その価値を社会に広める上で極めて重要な役割を果たしている。彼の貢献は、専門分野の研究者だけでなく、日本の伝統文化に関心を持つ多くの人々にとって貴重なものである。

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