長崎市歌

「長崎市歌」（ながさきしか）は、日本の長崎県長崎市が1933年（昭和8年）に制定した公的な歌です。その誕生には、当時の市の発展と大きな記念事業が深く関わっています。この歌の歌詞は松原清美氏の応募作品がもとになっており、長崎市教育会によって補作、そして作曲は著名な橋本國彦氏が手掛けました。

市歌制定の大きな契機の一つとなったのが、翌1934年（昭和9年）3月から5月にかけて長崎市を主会場として開催された国際産業観光博覧会です。この一大イベントの成功に向けて、テーマソングである「長崎博覧会の歌」をはじめ、地元紙やレコード会社主導で様々な「ご当地ソング」が企画・制作され、街は活気に満ちていました。また、博覧会開催前年の1933年には、現在のNHK長崎放送局の前身にあたるJOAGが開局したり、市内の交通網整備として重要な戸町トンネルが開通するなど、長崎市が近代都市として発展していく重要な節目が相次いでいました。

このような状況の下、長崎市役所は市教育会の創立15周年記念事業の一つとして、市歌制定を企画し、その事業遂行を市教育会事務局に委嘱しました。教育会は、広く市民から歌詞を募る懸賞公募を実施しました。この公募には、実に453篇もの作品が寄せられ、その関心の高さを示しました。厳正な審査の結果、一等入選に輝いたのは、当時長崎高等商業学校で教鞭をとっていた松原清美氏の応募作でした。しかしながら、公式な例規上の作詞者としては、個人名である松原氏の名前ではなく、「長崎市教育会 編」という形が採用されました。これは、公募事業全体を教育会が主導したこと、そして入選作に補作が施されたことなどによるものと考えられます。

市歌は1933年12月1日付で正式に制定が告示され、市民に広く知られることとなりました。その普及のため、日本コロムビア社によってSP盤レコードが制作されました。このレコード（品番A179）には、A面に伊藤武雄氏による独唱、B面には中央合唱団による斉唱が収録され、音としても市歌が記録されました。

しかし、1945年（昭和20年）8月9日、長崎市は原子爆弾の投下という未曽有の悲劇に見舞われ、市街は壊滅的な被害を受けました。この出来事は、長崎市のその後の歩みに大きな影響を与えました。

戦後復興が進む中で、長崎市は市制70周年という節目を迎えた1959年（昭和34年）、さらに新しい市庁舎が落成したことを記念して、新たに「長崎市民歌」を制定しました。新しい「市民歌」が誕生した後も、戦前に制定されたこの「長崎市歌」は法的に廃止されることなく、その存在を保ち続けました。このため、長崎市には現在、「長崎市歌」と「長崎市民歌」という二つの歌が並存している状態が続いています。特筆すべきは、長崎市の公式ウェブサイトにおいて、現在も紹介されているのはこの旧来の「長崎市歌」のみであるという点です。これは、制定時の歴史的背景や、長きにわたり歌い継がれてきたことに対する市の敬意を表しているとも解釈できるでしょう。

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