長松太郎

長松 太郎（ながまつ たろう）

1912年（大正元年）8月7日 - 1978年（昭和53年）10月24日

日本の都市計画家、造園家。戦後の混乱期から高度経済成長期にかけて、国の建設行政および広島市の復興・都市づくりにおいて重要な役割を担った人物です。特に広島市では建設局長や助役として、戦災からの復興と都市環境の改善に多大な功績を残しました。

生い立ちとキャリアの始まり

長松太郎は、著名な植物学者で実業家、貴族院議員も務めた長松篤棐の長男として生まれました。母方の祖父は工学博士の古市公威です。学習院を経て、1936年（昭和11年）に東京帝国大学農学部を卒業後、内務省神社局に入省しました。その後、現役兵として軍務に就き、除隊後は内務省都市計画東京地方委員会に勤務。1941年には正五位男爵の位階を授けられました。同年、内務省国土局計画課に転じた後、神奈川県庁を経て再度応召され、陸軍中尉として終戦を迎えました。

戦後復興と建設行政

終戦復員後、長松は戦災復興院施設課に入り、戦後日本の復興に携わります。この頃、公園施設の建築に関する基準づくりを担当し、その成果は後に制定される都市公園法の技術的な基礎となりました。また、混乱期に多発していた国有地への墓地造成問題に対し、墓地計画設計や移転手続きの研究も行いました。復興院が建設院、そして建設省へと再編される中で引き続き建設行政に携わり、建設省公園緑地課長を歴任。課長在任中の1962年には「都市の美観風致を維持するための樹木の保存に関する法律」の制定に貢献し、全国の市町村で基準を満たす樹木を保存樹として指定・保護する制度を確立しました。

広島での貢献

1963年（昭和38年）、長松は広島市に転出し、建設局長に就任します。当時の広島市は、戦災復興土地区画整理事業が進められていたものの、河岸緑地内に約1300戸もの不法建築物が存在し、換地処分や都市の美観・衛生上の大きな障害となっていました。長松は関係各方面の協力を取り付け、1966年から代執行による不法建築物の撤去に着手し、1970年までに全てを完了させました。これにより、現在の広島市の特徴的な景観の一部となっている河岸緑地の整備が実現しました。また、基町地区に集中していた戦後の仮設住宅群（いわゆる「原爆スラム」）も、一部は再開発が進んでいましたが、残存する不法建築も多かったため、河岸整備と並行して移転を促進しました。さらに、1946年に都市計画決定されていた中央公園の整備も進めました。

人物像と評価

長松太郎は、豪放磊落な性格で、酒を愛し、周囲から深く敬愛された人物として知られています。その手腕と情熱は、広島の都市基盤整備に不可欠なものでした。広島市での基町・長寿園団地計画における功績により、1970年には日本都市計画学会石川賞（計画設計部門）を受賞。また、造園分野での貢献に対し、1972年には第2回日本公園緑地協会北村賞が贈られました。

晩年

1978年10月24日、中脳腫瘍のため逝去しました。死後、長年の功績を称えられ、勲四等瑞宝章が贈られました。

彼の業績は、多くの著作や関連文献に記録されており、戦後の日本の都市計画・造園史において重要な位置を占めています。

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