長義和

長義和（ちょう よしかず）：幻のモスクワ五輪代表、その後の人生

長義和（ちょう よしかず、1953年10月3日 - ）は、大阪府出身の元自転車競技選手。彼の名は、モスクワオリンピックのボイコットという、日本のスポーツ史における苦い記憶と深く結びついています。

オリンピックへの挑戦

大阪府立城東工業高等学校から法政大学へと進んだ長は、早くからその才能を開花させました。1972年のミュンヘンオリンピックに初出場。その後、杉野鉄工所（現スギノエンジニアリング）に入社し、1976年のモントリオールオリンピックでは、スクラッチ（現スプリント）種目において日本人選手としてオリンピック史上初の6位入賞という快挙を成し遂げました。

競輪選手への夢、そして断念

1977年、長は日本競輪学校第41期に合格します。しかし、3年後のモスクワオリンピックへの夢を諦めきれず、競輪学校への入学を辞退。当時の競輪学校の受験資格は24歳未満であったため、この決断は、モスクワオリンピック後には競輪選手への道が閉ざされることを意味していました。1979年のプレオリンピック大会スクラッチで3位入賞を果たし、モスクワオリンピックのメダル候補として期待が高まります。

モスクワオリンピック・ボイコット

しかし、1980年5月24日、運命の日が訪れます。前年12月に発生したソ連のアフガニスタン侵攻を受け、アメリカ合衆国がモスクワオリンピックへのボイコットを西側諸国に呼びかけました。日本政府もこの動きに同調し、JOC総会の投票で日本の同大会ボイコットが決定、翌月には不参加が承認されます。競輪選手への道も絶たれた長は、このボイコットを機に現役引退を余儀なくされました。ボイコットの知らせを聞いた長は「全身から血が引いてゆくようです。」という言葉を残しています。

世界選手権への挑戦

長は世界選手権にも1974年から1979年まで5回出場しましたが、入賞は果たせませんでした。

第二の人生

現役引退後、島野工業（現シマノ）に入社。現在は和歌山県田辺市で自営として活躍しています。

中野浩一との比較

中野浩一の世界自転車選手権10連覇は、東欧勢の不参加による影響が大きいと言われています。しかし、当時の自転車関係者の間では、中野の最大のライバルは長であるという声もありました。もし長がモントリオールオリンピック後に競輪界入りしていれば、中野の連覇記録は10回に届かなかったかもしれないという意見も一部に存在します。実際に、日本サイクルスポーツセンターで世界選手権に参戦する前の中野と長は5回ほど非公式に対戦し、全て長が勝利しています。

シマノでの貢献

現役引退後、島野工業（現シマノ）に入社した長は、当時の社長であった島野尚三の命を受け、ブレーキ部分にシフトレバーを組み込むデュアルコントロールレバーの開発に携わるなど、「世界のシマノ」ブランドの形成に大きく貢献しました。

メディアへの登場

長義和の人生は、深田祐介の『さらば麗しきウインブルドン』や、池井優の『一瞬にかけたアスリートたち』などの書籍で紹介されています。また、NHK朝の連続テレビ小説『やんちゃくれ』には、長をモデルとした人物が登場しています。

長義和。彼は、才能と努力を持ちながらも、時代の波に翻弄された悲劇のアスリートとして、その名が語り継がれています。

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