長谷川寿一

長谷川 寿一（はせがわ としかず）

1952年4月23日生まれ。日本の行動生態学者であり、東京大学名誉教授を務めています。進化生物学の視点から、人間を含む多様な生物の行動や生態、認知機能に関する研究で知られています。神奈川県の出身で、同じく行動生態学の分野で活躍する長谷川眞理子氏は夫人です。

学術的経歴

長谷川氏は、1971年3月に東京学芸大学附属高等学校を卒業後、東京大学へ進学しました。文学部で心理学を専修し、1976年3月に卒業。さらに東京大学大学院人文科学研究科の心理学専門課程に進み、1977年3月に修士課程を修了しました。博士課程においては、1984年3月に単位取得退学しましたが、その後の研究を経て、1987年には「野生チンパンジーの性行動 -その比較心理学的研究」と題した論文で東大文学博士の学位を取得しています。

職務経歴

キャリアの初期には、国際的な活動にも従事しています。1979年11月から1982年6月にかけて、国際協力事業団の派遣専門家としてタンザニア連合共和国に滞在し、天然資源省の野生動物調査官を務めました。帰国後、1984年4月に東京大学教養学部の助手（心理学教室）として着任。1988年4月には帝京大学文学部助教授に転じましたが、1991年10月には再び東京大学に戻り、教養学部の助教授（大学院総合文化研究科併任）となりました。1999年4月には、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻の教授に昇任し、長年にわたり教育・研究活動の中心を担いました。その間、2011年2月から2013年までの期間、同教養学部・総合文化研究科長という要職も務めています。2018年に東京大学を定年退官し、名誉教授の称号が授与されました。

主な研究分野と貢献

長谷川氏の研究テーマは非常に多岐にわたりますが、一貫して進化生物学や行動生態学の視点から、生物、特に霊長類やヒトの行動、認知、生活史戦略、配偶戦略などを探求してきました。具体的には、インドクジャクの配偶者選択に関する詳細な研究や、ヒト・類人猿の進化的な生活史戦略と配偶戦略の比較研究、さらには自閉症者の認知メカニズムに関する研究などに取り組んでいます。これらの研究は、生物がどのように環境に適応し、進化的な制約の中で特定の行動や認知機能を発達させてきたのかを理解する上で重要な貢献をしています。

著作・翻訳活動

学術研究の傍ら、一般向けの啓蒙活動や海外の重要な研究成果の紹介にも力を入れています。特に、夫人である長谷川眞理子氏との共著として『進化と人間行動』を上梓しており、この分野の代表的なテキストとして広く読まれています（第2版も刊行）。また、松沢哲郎氏との共編著『心の進化 人間性の起源をもとめて』や、認知科学や脳科学に関連する共編著も多数手がけています。

翻訳者としても精力的に活動しており、ジャレド・ダイアモンドの『人間はどこまでチンパンジーか?』や『セックスはなぜ楽しいか』、マーティン・デイリーとマーゴ・ウィルソンの『人が人を殺すとき』、ビルーテ・M.F.ガルディカスの『オランウータンとともに』、ランドルフ・M.ネシーとジョージ・C.ウィリアムズの『病気はなぜ、あるのか』など、進化、行動、生態、医学といった多様な分野の著名な海外研究者の著作を複数、共同で翻訳しています。これらの翻訳は、日本の学術界や一般社会に海外の最先端の研究成果を紹介する上で、非常に重要な役割を果たしました。

その他の活動

学外においても、日本の学術振興に貢献しています。2005年10月からは日本学術会議の会員を務め、学術政策に関する提言などを行っています。

プライベートでは、スタンダードプードルの「キクマル」を飼っていることが、テレビ番組「ブラタモリ」で紹介された際に触れられています。

長谷川寿一氏は、行動生態学、進化心理学、認知科学といった分野を横断し、人間と動物の行動や認知の根源に迫る研究を展開するとともに、教育者、啓蒙家、翻訳者としても多大な貢献を続けています。その活動は、学術界のみならず、一般社会においても進化的な視点から人間理解を深める上で重要な示唆を与えています。

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