長谷川治郎兵衛

伊勢商人・長谷川治郎兵衛家の歴史：綿問屋からガラス店へ、そしてその遺産

長谷川治郎兵衛（はせがわ じろべえ）は、三重県松阪市にルーツを持つ、江戸時代から続く名門伊勢商人の家系に生まれた人物です。長谷川家は「丹波屋」という屋号で知られ、その歴史は寛永12年（1635年）、一族の布屋市右衛門が江戸・日本橋大伝馬町で木綿売買を開始したことに遡ります。

その後、慶安2年（1649年）、二代目丹波屋次郎兵衛喜安が江戸へ進出し、事業を拡大。三代目政幸（宗印居士）も布屋で経験を積み、30歳で独立して木綿仲買を始めます。貞享3年（1686年）には大伝馬町の木綿問屋70軒が組織化される中、宗印は後に店を任せ郷里松阪へ戻りました。この頃には、長谷川家の資産は既に一万七千両に達していました。

元禄15年（1702年）、長谷川源右衛門が尾州木綿などを扱う新店を創業。享保10年（1725年）には分家である亀屋武右衛門、元文3年には分家戎屋六郎次がそれぞれ木綿店を開業し、事業はさらに拡大、資産は四万九千両に膨れ上がりました。天明2年（1782年）には六代邦淑（宗閑居士）が大伝馬町に向店を新設。5店舗体制となり、資産は15万両に達するまでに成長しました。

しかし、安政4年（1775年）、長谷川治郎兵衛が御為替組（大坂の幕府公金を江戸へ送る商人組織）に加わった頃から、家業には影が見え始めます。度重なる上納金による負担や、文化3年（1806年）の江戸店全焼など、経営は悪化の一途を辿り、本家も緊縮財政を余儀なくされました。

明治維新という激動期を乗り越え、経営は徐々に安定を取り戻していきます。明治42年（1909年）、十一代目定矩（宗真、可同）はガラス店という新たな事業に参入。大正7年（1918年）には5店舗を統合し株式会社長谷川商店を設立しますが、大正12年（1923年）の関東大震災で東京店が全焼するという痛手を被ります。

定矩は文化人としても知られ、特に俳諧を愛し、餅のコレクターとしても有名でした。全国各地から集めた餅は数千点にも及び、大正9年（1920年）、敷地内に「餅舎（もちのや）」という餅の博物館を開館、松阪の新たな名所となりました。しかし、昭和16年（1941年）に閉館しています。

第二次世界大戦後、昭和45年（1970年）には社名を「マルサン長谷川」に変更して営業を継続しましたが、平成26年（2014年）に会社は解散。長きに渡る歴史に幕を閉じました。

一方で、長谷川治郎兵衛家の旧宅は松阪市に現存し、平成25年（2013年）に松阪市に寄贈されました。平成28年（2016年）には国の重要文化財に指定され、現在も一般公開されています。松阪の観光資源として、歴史的建造物としての保存と活用が進められています。 現在、一般社団法人松阪市観光協会、NPO法人松阪歴史文化舎によって管理運営されています。

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