長谷川眞理子

長谷川 眞理子（はせがわ まりこ）氏は、1952年7月18日生まれの日本の著名な人類学者です。その研究は主に行動生態学と自然人類学に跨り、特に動物における性淘汰のメカニズムや、人間の進化と適応に関する幅広い探究を行ってきました。

東京都出身である長谷川氏は、東京大学理学部生物学科（人類学教室）を卒業後、同大学大学院理学系研究科人類学専門課程で学びました。大学院在籍中の1980年から約2年間、国際協力事業団の派遣専門家としてタンザニア共和国に滞在し、野生動物に関する調査に従事しています。このタンザニアでの経験は、その後の研究に大きな影響を与えました。

1983年に東京大学理学部助手となり、研究者としてのキャリアを本格的にスタートさせました。1986年には「マハレ国立公園における野生チンパンジーの成長と母子関係」に関する研究で、東京大学より理学博士の学位を取得しています。この博士論文は、霊長類の行動と社会構造に関する深い洞察を示すものでした。

その後、専修大学法学部での教職を経て、1992年と1994年にはイェール大学人類学部で准教授として研究・教育にあたりました。この海外での経験は、国際的な視野を広げる貴重な機会となりました。専修大学に教授として戻った後、2000年からは早稲田大学政治経済学部教授を務め、幅広い分野の学生に人類学の面白さを伝えています。

2006年からは総合研究大学院大学に移り、葉山高等研究センター教授、生命共生体進化学専攻教授、同研究科長などを歴任しました。そして、2017年4月には同大学の学長に就任し、日本の大学行政においても重要な役割を果たしました。

学術分野のみならず、社会の様々な場面でその知見を活かしています。2007年には国家公安委員会委員に就任し、二期を務めました。2023年4月には、日本芸術文化振興会理事長に就任し、文化芸術分野の振興にも貢献しています。同年6月には信越化学工業の社外取締役にも就任するなど、活動の幅を広げています。

長谷川氏は、日本動物行動学会会長や科学技術・学術審議会脳科学委員会委員なども務め、学術界の発展にも尽力してきました。長年の功績が称えられ、2023年4月には旭日中綬章を受章しています。

研究成果や科学的知見を一般の人々にも分かりやすく伝えることにも情熱を注いでおり、数多くの著作を執筆しています。単著としては、『クジャクの雄はなぜ美しい？』『オスとメス＝性の不思議』『進化とはなんだろうか』『生き物をめぐる4つの「なぜ」』などがあり、進化、性、動物行動、人間の本質といったテーマを平易な言葉で解説しています。また、同じく行動生態学者である夫の長谷川寿一氏との共著『進化と人間行動』は、この分野の主要なテキストとなっています。

さらに、ジャレド・ダイアモンド、マット・リドレー、チャールズ・ダーウィンといった海外の重要な進化生物学者の著作を翻訳し、日本の読者に紹介する役割も果たしています。これらの活動を通じて、日本の学術界と一般社会における進化生物学や人類学への理解促進に大きく貢献してきました。

長谷川眞理子氏は、精力的な研究活動、教育活動、そして幅広い社会貢献を通じて、日本の自然人類学・行動生態学分野を牽引してきた第一人者と言えるでしょう。その多角的な視点からの発信は、今後も多くの人々に示唆を与え続けると期待されます。

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